本日9月18日、木村彰宏『教育者のためのコーチング入門 ハンドルをゆだねる対話のデザイン』が発売されます。著者の木村彰宏さん(あっきー)は教育とコーチングの分野の専門家で、僕にとっては軽井沢風越学園の元同僚。2022年度に一緒に担任チームを組んだので、僕のブログでも、検索すると何度か名前が登場します。そんな縁もあって、この本の制作にガッツリ関わったので、今日のエントリはこの本の紹介。「教育×コーチング」分野で10年後まで残ると自信をもってお勧めできる本。ぜひ、手にとって、読んで、使ってください。
「教育現場ではコーチングはできない」からはじまる
『教育者のためのコーチング入門』は、元教員であり、国際資格を持つ現役のプロコーチでもあるあっきーが、教育現場では純粋なコーチングができない原理的な難しさを前提としつつ、それでも、コーチングの考え方を教育に活かすための理論と具体的な手立てを書いた入門書。タイトルに「入門」とあるけれど、全部で400ページ超え。字は大きいので読みやすいのですが、昨今の教育書には珍しい、本格的な入門書です。
この本の最大の魅力は、その出発点の置き方にあります。教師と生徒という「権力に勾配のある関係」では、純粋にコーチング的な関わりはできない。そこを出発点としたうえで、それでもなお子どもからハンドルを奪わず、子どもが主体的に判断することを助けるには、大人はどう関わればいいのか。その問いに対して、基本的な考え方と、それを実践するための具体的な手立てが整理されて書かれています。だから、子どもとの関わりに日々試行錯誤している先生や、同僚との関わりを模索している先生にとっては、これ以上ない具体的なガイドになるはず。
内容は理論編・実践編・探究編に分かれています。まずは第1部「理論編」で、なぜ教育現場では純粋なコーチングができないのかの説明から入り、それでもコーチングの考えを活かして教育者に何ができるのか、そのための具体的なマインドセット、プロセス、スキルが説明されます。ついで第2部「実践編」では、子どもとの関わり、同僚との関わり、あるいは管理職や教育委員会など上下関係のある中での関わり、そして自分自身との関わりと、具体的な場面に即した、理論の活用の仕方が書かれています。ここが一番具体で活かしやすいはず。さらに学びたい人に向けて第3部「探究編があり、学校現場でコーチングの考え方をどう生かすために学び続けるにはどうしたらいいか、さらにはコーチングそのものを本格的に学びたい人向けのガイドもついています。
400ページ超の、それでも「入門書」な理由
この目次立ての紹介でわかると思うのだけど、この本は、先日紹介した同じ風越学園の元同僚・佐々木陽平さんの『わたしらしくつくる算数・数学の時間』とは、かなり作りが異なります(下記エントリ参照)。
あちらが著者自身の実践上の迷いやエピソードを前面に押し出して、著者のストーリーに共感を寄せてもらいつつ「一緒に考える」本だとすると、こちらはぐっと教科書的・客観的な作りの本。実際問題として、あっきーほどの知名度や豊富な経験があれば、自分のストーリーを強調したり、もっといえば「みるみる子どもが主体的になる! コーチングをいかした木村メソッド」的な商業アピールの仕方もできるのだけど、一切それがない。あっきー自身の姿はぐっと後景に退いて、あっきーが学んできた理論や経験をもとに、「コーチングについて本格的に学びたいなら、ここから入ったらどうですか」と、自身はあくまで「門」として存在している。
実は、僕がこの本の制作プロセスに長く関わって一番感じていたのは、このあっきーなりの「コーチングへや読み手への真摯さ、誠実さ」でした。陽平さんの誠実さが、自己の体験にもとづいてそのプロセスを語る誠実さだとすれば、あっきーの方は、あえて自己のプロセスを消して「門」としてそこに立つ誠実さ。コーチングに正解などないと知りつつ、でもどの人も知っておくといい考え方や持っておくといいスキル、そして、その人が自分でさらに学びを深めるための手立てまで、徹頭徹尾「読者がコーチングを学ぶために」書かれた本。その「読者」も、学級担任から学年主任、管理職、教育委員会の指導主事まで…。あっきーが関わってきた多様な人たちが「使える」ように、吟味して書いていました。コーチングに対しても、読者に対しても、嘘がない。だから一回読んで「あーいい本読んだ」で終わるのではなく、幾度となく読み返してほしい本です。
ライティング支援として、始まりから最後まで
僕はこの本に、ライティング支援の担当として、ほぼ始まりから最後まで関わってきました。最初にあっきーから「本づくりの伴走をしてほしい」と依頼がきたのは2025年の1月。元同僚からの依頼とあって、もちろん引き受けたのだけど、もちろんそれだけでなく、あっきーの子どもとの関わりをずっと見てきたうえでの彼への信頼と、ちゃんと文章になるなら絶対にいい本になるだろうという確信がありました。
僕がしたのは、具体的には、あっきーのライフストーリーをもう一度聞き直すことから始めて、目次の構成案を一緒につくり、忙しい彼が書くための時間を確保すべく定期的にZoomのミーティングを設定し、具体的な読者の顔を思い浮かべてもらうためにワークショップもやり…途中の原稿を誰かに読んでもらってフィードバックをもらうことも提案しました。「監禁」も、軽井沢と東京2回したかな。そうやって関わって、徐々にあっきーの執筆ペースもあがり、中身がだんだん見えてくるうちに、これは10年後にもこの分野で残る本になる、コーチングの教育分野への活用について学ぶときに、この本を押さえなかったらおかしいくらいの本になる、という確信が強まってきたのを覚えています。
そうやって深く関わってきたこともあり、最後にタイトルやサブタイトルを考える段階で、「ここまで一緒にやってきてくれたあすこまにつけてほしい」とのうれしいメッセージをいただいて、僕がいくつかの案を出させてもらいました。そんなわけで、あっきーの本ではあるけれど、アイデア出しから出版までずっと関わってきた、思い入れの深い本です。
最初の「読者」としてこの本を活用して
そして、幸運にも著者にいちばん近い立場でこの本作りに関わっていたことで、僕はこの本から、とてもよく学ばせてもらったとも思っています。
この春から勤務先が福山平成大学に移って、学生さんと1対1で面談をする機会が増えました。福山平成大学にはゼミ担任(クラス担任)の制度があって、そこでの関わりの面談もあれば、教員採用試験に向けた面接の練習や個別サポートの面談もあり、模擬授業のふりかえりもあり、悩み相談や学生指導的な面談もある。特に6月から7月にかけては、学生さんとの関係もできてきて、またトラブルなども増える時期で、毎週3・4日は誰かしらと1日1時間程度話している、そんな時もありました。
そして、そういう面談の場面で、この本の第1章で書かれているマインドセットやスキル、第4章に書かれている子どもとのコーチング的な関わりに、とても助けられてきました。
と言っても、この本には具体的な手立てが様々に書かれているので、それを全部できているわけでは全くありません。本書の内容のうち「とにかく共感・整理・提案・触発の4つのプロセスだけは意識しよう」という日がしばらく続きました。それがある程度はできるようになってきて、じゃあ共感のフェーズのときにはこれを意識してみようとなり、「ペーシングを意識しよう」としたら、結果的に学生さんの様子をよく見ることにつながったり、僕が学生さんをコントロールしないために自分の褒め方を警戒したり….。そうやって、学生さんとの面談で意識することの解像度がちょっとずつ高まっていった感じです。
そして、一ヶ月から二ヶ月程度の短期間ではあっても、その効果は確実にあったなと実感しています。研究室のドアをノックした学生さんが、最後には少し元気な状態になってさよならしたり、自分なりに目標を設定してもらって帰ってもらったりということもありました。僕と学生さんのにも権力勾配はあり、こちらは指導する立場なので、時にはこちらから「こうしたほうがいい」と言うことも当然あるのですが、その提案のタイミングや提案の仕方にも、学生さんがそれを納得して受け入れられるための小さいコツがあることもわかりました。
この本をそんなふうに使ってみてあらためて実感したのは、当たり前だけど、なにごとにも練習や熟達が必要なのだということ。読んで「いい本だったなあ」とか「新しい考えを知りました」「モヤモヤを持ち帰りました」だけでは、実際には何も変わらない。成長には具体的な意識の変化と場数が、要するにトレーニングが必要で、この本は、膨大なトレーニングをつんできたあっきーが、自分の学習 や経験をもとに、「 トレーニングするにはここから入るといいよ」とつくってくれた「門」なわけです。そう考えると、とってもありがたいこと。
対人関係のベースには、聞くことがある
そしてもうひとつ、やはり対人関係のベースには聞くことがあるのだな、とも実感できました。あっきーの本のゲラを見ながら面談を重ねた6・7月は、大学生であっても、そして大人であっても、人はこんなに聞いてもらえていないんだ、もっともっと話を聞いてもらいたい人がたくさんいるんだ、と気づけた時期でもあります。話を聞いてもらえれば、話すうちに自分自身の中から解決策が自然と生まれてくる、人にはそういう力がある。そう思えることも何度もありました。その実感も、仕事だけでなく、家族はもちろん、今後のいろいろな人とのかかわりで活かしていきたいな、と思います。
こんなふうに、僕は最初の読者としてこの本に出会い、この本の内容をもとに実践し、ふりかえることで、学べてきた実感があります。もちろん僕はコーチングの専門家ではないので軽々しくは言えないのだけど、コーチングを教育の分野に生かす、そのジャンルを代表する、今後10年は残る——そう言ってもおかしくない本になのではないかと思います。
「正解」はないけれど「指針」はあるはず!
コーチングには、というより、そもそも人と人の関わりには「これさえやれば正解」なんてない。でも、基本的な指針はあるはず。そう思える一冊です。一読して終わりの本ではありません。実践しながら読み直し、使い、そこから自分と子ども、自分と同僚、自分と大切な人たちの関わりについて、考えつづけるための本です。今では「ノウハウ本」という言い方はその本を低く見積る意味で定着しているけど、ノウハウ本として使ってもいい、というか、ノウハウ本として使い、経験することで、はじめて深く考えることができる。そんなことを思わせてもくれる本でした。教育分野にコーチングをどう活かすか学びたいあなたへ、自信をもっておすすめします。ぜひ、読んで、使ってください。


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