やってよかった!出版までのプロセスを語る「出版記念オーサーズ・トーク」

「作家の時間」ユニット2「真似からはじめて、」は、約一ヶ月間の執筆期間を終えて、一週間前になんとか作品集『風の門』の編集作業にこぎつけた。上下巻200ページ超の作品集を、火曜日には無事にみんなで製本。いつもならここから読み合いに入るんだけど、今年度はその前に「プロセスについて語り合う/聞き合う会」、題して「出版記念オーサーズ・トーク」を行った。今日はそれについてのエントリ。

写真は5月末にアドベンチャーの下見で行った天狗岳。右側の東天狗と左側の西天狗が見えます。この日はいいお天気だった。本番は梅雨入り後の時期だけど、晴れるといいなあ。

目次

「作品」よりも「プロセス」に意識を向ける方法

風越での「作家の時間」実践で気づいたことの一つが、僕ら教師はつい「どう書かせるか」に意識を向けがちだけど、実際には書いた文章を「どう扱うか」のほうが大事ではないか、ということだ。書くことの熟達は長い道のりがかかるので、「次を書く」がなければ成長のしようがない。そして「次を書く」ために大事なのは、書いた作品やそこまでのプロセスを丁寧に取り扱うことだ。その経験が、書き手としての自意識を育み、「次はこうしたい」を生み出す。

だから、僕は出版後の時間をかなりとっている。執筆が10コマに対して、執筆後の時間が7コマくらいあるのだ。そして、今年度、さらにもう一つ(準備も加えて2コマぶん)を加えた。それが「出版記念オーサーズ・トーク」。発端は、国語科の教科会で、りんちゃん(甲斐利恵子さん)の、大村はまの流れを汲む「国語学習記録」を参照しながら「こんなふうにプロセスを大事にした作品集を「作家の時間」でも作れないか」と、みんなでおしゃべりしていたこと。

そんな文脈の中で、今年度2−4年生の「作家の時間」を担当しているとっくん(片岡利允さん)が、「作品集を読み合うのではなく、アウトプットデイのように作品について語り合う会を行う」という話を聞いた。小さい子は読み合ってファンレター(まして批評)を書いたりするのが難しい事情があるからだが、その話に興味を持って授業を見学したら、とっても良い雰囲気。これはぜひ56年でもやろう、と思ったのだ。

プロセスを語ることの意義

ただ作品が並んだ作品集だと、どうしても結果としての作品の「出来」(上手い下手、面白いつまらない)に読み手の意識が向かってしまう。でも、たとえば作家ノートを頑張って作ったけど実際の執筆では力尽きてしまった子もいれば、結果としての作品はそう目立たないけど、実はその子の中ではこれまでと比べてすごく頑張った子もいる。そういう作品成立の背景は、どうしてもふだんは見えにくい(これをつかみにいくのがカンファランスである)。

そういう執筆プロセスを、ふだんの「作家の時間」の最後にやっている「オーサーズ・トーク」の拡大版として、全員に語ってもらったらいいんじゃないか。語り直すことで自分の作品に誇りや愛着を持てるようになったり、執筆プロセスに自覚的になったりできるんじゃないだろうか。また、2グループ交代で行うので、聞き手にまわる子は、ふだん自分からは手にとらないような子の作品に興味をもつきっかけにもなるんじゃないだろうか。

語られる、個々の書き手のプロセス

そんな願いをもって、6月13日(木)に「出版記念オーサーズ・トーク」を行った。15分交代の2セット、子ども同士だけでなく保護者やスタッフにも来てもらった。いやー、我ながら、とても良い雰囲気だったと思う。授業中の様子もそうだったし、終わってからも「楽しかった」「時間が足りなかった」という声が多かった。

僕も数名の子にインタビューできたのだけど、そこで聞けた話も全部面白かった。たとえば、『ぐりとぐら』を真似した子は、「絵本の歌の替え歌を考えるのが楽しかった」と言い、書くことに苦手意識があり、「作家の時間」でも「食べ物ライティング」を選ぶことの多い子は、「今回は句読点を意識して頑張った。書き手として前よりも成長していると思う」と語った。

今回めっちゃ頑張って分量を増やした子は、それでも不満足だったようだ。「先輩の作家ノートを真似して人物設定を細かく書いたんだけど、それで時間を使い過ぎてしまった。次はもっと早く書くほうに移りたい。そうしたら、提出前に読み直すこともできると思う」と次へのプランを語った。また、『成瀬は天下を取りに行く』を真似した子は、最初の一文を成瀬の書き出しを真似て書き出したら、最後の一文は自分でもその文体がしっくりときた感じがあったそうだ。そんなふうに、インタビューをするたびに、自分の執筆プロセスについてしっかりと言葉にしてくれる子たちが多くて、聞いてて楽しい。

反省点としては、子ども同士のペアだとプロセスを中心に語るのはやっぱり難しいのか、事前にワークシートに準備する時間はとっていたにもかかわらず、あらすじの説明になるところも多かったらしいところ。ここはどうしたらいいかな。でもまあ、自分の作品について語りたくなる気持ちもわかるし、無理して修正しなくてもいいかな、と思える雰囲気の良さがあった。

自分にとっての効用も…

出版記念オーサーズ・トークには、僕にとっての効用もあった。下記エントリで書いたとおり、僕は意識的にカンファランスを減らして、代わりに自分も書き手として授業中に書く時間を増やしている。終盤はけっこうカンファランスに追われていたとはいえ、授業中にパソコンで記録をとることをやめたので、記憶力の悪い僕は、子どものプロセスはあまり把握できなくなった。

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2024.05.13

だから、この出版記念オーサーズ・トークで、たった数名とはいえ、何人かのプロセスを直接聞けたのはとてもよかった。本当は全員のを聴きたかったな。

来週からは、作品をお互いに読み合い、コメントを書き合う時間。僕も同じく彼らの作品集を読んでコメントを書くのだけど、出版記念オーサーズ・トーク用に彼らが書いたワークシートとそのふりかえりを読みながら、プロセスにも思いを馳せてコメントを書くことにしよう。

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