前回のエントリで、最近グループ・カンファランス(1対1ではなく複数名でのピア・カンファランス)を久しぶりにやったと書いたけど、僕には2009年から2011年頃にかけて、かなり熱心にグループカンファランスをしていた時期があります。今日はこの頃の実践を振り返りながら、自分がどんな思いでグループカンファレンスをし、そして辞めたのかを振り返ってみます。
当初取り組んだ相互カンファランス
僕がライティング・ワークショップを本格的に始めたのは2008年のこと。その時から既に、ペアになってお互いの文章を読んで助言をし合うピア・カンファレンスを取り入れていました。その理由は単純明快で、当時受け持っていた40人学級×3〜4クラスの生徒全員に自分が関わることは、労力的にとうてい不可能だと思ったからです。
当初は、ライティング・ワークショップのちょうど中間の時期に下書きの原稿提出日を設け、それをもとに、下書きの相互カンファランスをする仕組みでした。相互カンファランスの前には、アトウェルの『イン・ザ・ミドル』を参考に手引きを配り、読み手を「編集者」と呼んで、相手のより良い作品作りを手伝うスタンスで関わってほしいという願いを伝えていました。
質問中心のグループ・カンファランスへ
翌2009年にはこの仕組みを大きく変えて、4人1組のグループカンファランス「編集会議」をはじめます。この特徴は、相手の下書きに意見を言うのではなく、質問をすることで文章の質の向上をはかったことでした。
「編集会議」の参考にしたのは清宮普美代『質問会議』です。アクションラーニングという、質問を中心に行うグループ版コーチングの手法を使った本で、意見を言わない点に魅力を感じて導入をしました。というのも、相手の下書きに対して読み手が意見を言うと、つい自分が優れていることを示そうとしたり、相手を説得しようとしたりするモードになりがちだからです。
当時、僕が行っていたのは次のような形でした。4人1組となり、1人が書き手、2人が編集者、もう1人が記録者の役割を担い、10分のセッションを行います。そのうち7分が検討会、残り3分が振り返り。7分の検討会では、2人の編集者が1人の書き手に質問をします。編集者は書き手の思考を促すような質問をして、書き手が書くことを助けるのです。書き手は編集者の質問に答えながら、自分の作品作りについて振り返り、作品改善のヒントを得るわけです。記録者は、このやりとりをホワイトボードに記録します。
この7分の検討が終わると、次は3分間の振り返り。この時間は、記録者が司会となり、自分がとった記録を見せながら、書き手にどの質問が役に立ったかを聞くところからはじめ、次にもっと良い検討会にするにはどうしたらいいかなどの質問を場に投げかけます。こうしてグループカンファランスの質を高める意識を持ちつつ、役割を交代して次のセッションに向かうわけです。
当時の僕は、このやり方に大きな可能性を感じていました。意見を言わずに質問をして相手を助ける点も、生徒の間に優劣関係が生じにくく魅力的でしたし、書くことの学習の中に話すことや聞くことの学習もうまく組み込めたように思えました。実際、この2009年には「編集会議」で公開授業を行い、その後もこのやり方の質を上げるために科研費を獲得して実践を続けました。
編集会議をやめた理由は?
このように熱心に取り組んだ編集会議という名のグループカンファランス。しかし、2012年ごろに僕が一旦ライティング・ワークショップから離れたのをきっかけに、それ以降はやめてしまいました。その後、またライティング・ワークショップを再開したときも、復活することはなかったのです。その理由を今振り返ると、次のようなものでした。
そもそも相手の作品をより良くする目的で質問するのは、シンプルにとても難しいのです。単に質問をすればいいのではありません。相手のゴールを理解し、相手の現在地も把握した上で、その現在地からどうやったらゴールに行くかを思いながら、相手に質問をしなくてはいけません。自分がカンファランスの経験を重ねるにつれて、その難しさに気づき、これを自分が受け持っている中学生たちにもやるように要求するのは無茶だと思うようになりました。
実際、編集会議の最中に、どうしても生徒は感想や意見を言いたくなってしまいます。それをあえて質問だけに制約して、それが生み出すメリットを追求したものの、やはりそれは難しく、最終的には、質問にしばること自体が僕自身にとっても「不自然」に思えてしまったのでしょう。
編集会議から得た、良い質問とはなにか?という視点
しかし、この「編集会議」の実践は、学ぶことの多いものでもありました。というのも、より良い編集会議の姿を模索する中で、「どんな質問が良い質問なのか」という問いが浮かび上がり、コーチングバンク代表の原口佳典さんというプロコーチの方と、一緒に質問の質について研究する機会に恵まれたのです。具体的には、編集会議の後に、子供たちが「これは良い質問だった」と振り返った質問をピックアップし、それらの質問が作品にどのように影響したかを考察しました。
その結果は面白いものでした。僕は当初、「書き手の発想を広げる」タイプの質問や、「書き手の作品に直接大きな影響を与える」質問が、「良い質問」だという仮説を持っていたのですが、結果は違っていました。実際には書き手は、自分の作品に寄り添い、自分の作品の不明確なところを明らかにしたり、中身を確認したりする質問を、「良い質問」だと捉える傾向を強く持っていました。
これはおそらく、いきなり自分の発想にない視点を考えさせる質問をされても、書き手が心情的に受け取りにくいということなんでしょう。それよりは、まずは自分の書いたものに寄り添ってくれる質問が良い質問だと思われやすい。仮に、発想を広げる質問をされても、「編集会議」の短い時間の中では、それを受け取れる書き手側のマインドセットが整うのは難しいのではないか、と思います。
この経験は、その後の僕のカンファランスにも影響を与えました。いきなり書き手の発想を広げたり、作品に不足している点を指摘するよりも、最初はなるべく書き手の意図や文章の内容を確認するような、書き手にとって答えやすい質問から会話をはじめたほうが良い。そんなことを学んだわけです。
仕組みとしては意欲的だったが….得た教訓
今振り返ると、この編集会議という形のグループカンファランスは、仕組みとしては意欲的だったし、一見よくできていたのですが、やはりその仕組みの「見栄え」の良さに自分自身がまどわされていたのかな、と思います。子供たちのやりとりを実際に分析する中で、自分の要求が高すぎたことに気づき、またその質を担保する練習時間を十分に取ることが難しい現状から、この形での編集会議は、その後やらなくなってしまいました。
とは言え、もう15年も前の、自分がライティングワークショップに出会って熱心に取り組んでいた時期の、思い出深い実践であることには違いがありません。また、このときの質問の分析を通じて、カンファランスについて多く学んだとも思っています。その意味で、もう同じ形態をやることはないでしょうが、記憶に残る実践でもありました。
こんにちは。以前からブログを読ませていただいています。
サイトの閲覧に関しまして、お伝えすべきと思われる事象がございまして、コメントいたします。
具体的には分からないのですが、おそらく数ヶ月前から、記事を読もうとリンクを押した際に(正規の記事ではなく)いかにもスパムらしきポルノ広告に飛ばされることがあります。毎回ではなく「たまに」です。ブログのトップページなどから見られる記事リンク自体は正規のものなのですが、実際に開くと、別のページに遷移する(リダイレクトされる)ような挙動です。
私が確認した範囲では、閲覧に使う端末・ブラウザ・回線に関わらずこの現象が起こり、またあすこまさんのブログ以外では起こっておりません。そのため、閲覧側の環境に起因している事象ではないと推測しています。
ウイルス対策ソフトを用いているPCでは、そのリダイレクトが起こった際には「Malvertising」と判定され、アクセスがブロックされます。私も詳しくは分からないのですが、「infosystemsllcドットコム」というドメインの後ろにランダムな文字列が20文字ほど付与されたようなアドレスに飛んでいます。
このことから、おそらく「マルバタイジング」や「リダイレクトハッキング」と呼ばれる攻撃に晒され、このウェブサイトの仕組みの一部が改ざんされてしまっているのではないかと思います。
私自身この方面の知識があるわけではなく、問題解消のための具体的アドバイスや指摘ができず心苦しいのですが、取り急ぎ、報告だけさせていただきました。解決の一助になりましたら幸いです。
ちなみに印象としては、「少し久しぶりに訪問した時」に起こりやすい気がします。頻繁にアクセスしている人たちには気付かれないようにするための手法なのかもしれません。
赤井さん、詳しく教えてくださってありがとうございます。
ご指摘の状況、12月頃から把握しており、私自身も、ポルノではないですが、セキュリティ系の怪しい警告のページを出したことがあります。
(実は、私自身はほとんどこの現象にあってないのですが….)
いつもそうなるのではなく、時折そうなるらしい、という点も、赤井さんのご指摘の通りです。
ワードプレスのプラグインの問題かなと思っていたのですが、一つ一つ止めてみても解決せず、困っておりました。
「マルバタイジング」や「リダイレクトハッキング」という攻撃なのですね。ちょっと調べてみたのですが、
私は特に知識があるわけでもないので、ひとつひとつファイルを確認しての自力で復旧は難しそうで、かといって高額な復旧サービスを利用するのも…。
今のところちょっと解決策が見当たらないのですが、でも、攻撃にさらされているということがわかっただけでも前進です。ありがとうございました。