全国大学国語教育学会の「国語教育における調査研究」という冊子を読みました。学習指導要領改訂に向けてエビデンスの重要性が言われる潮流を受けて、学会の研究部門が作ったもののようです。残念ながらウェブ上では非公開のようですが(学会誌の「国語科教育」はJ-Stageで全文公開なのですが、こちらはどうなのかな? 公開希望!)、特に作文教育についての調査が興味深かったので、そこだけメモ代わりに紹介します。
大規模な実態調査
この調査は、2017年に研究部門が小中高の先生対象に行ったもの。書くことの指導についてのアンケート(小中高校生対象、247名回収)と、パフォーマンス調査(小中対象。小5児童が書いたという想定の作文を、個別に返却する想定で評価してもらう)から構成されており、小中高の教員を対象とした指導意識と実態の両方の調査としては、初の試みのようだ。
結果の簡単な紹介
ここでは気になったポイントをメモ程度に書く。詳しくはこの冊子を入手して読んで下さい。
- 一年間での書くことの指導は、小学校では「6回以上」が多く、中学校では「3~5回」、高校では「1・2回」が多い。学年が上がるに連れて、児童生徒にひとまとまりの文章を書かせる機会が減る傾向にある。
- 教員が「中学3年修了時までに書けたほうが良い」と考える文章のジャンル。上位3トップは意見文・論説文、レポート、自己推薦文。下位3トップは劇の台本、随筆、物語。全体として、「伝達する文章」を書けるようになってほしいと思い、「物語る文章」については書けるようなってほしいとは思っていない(ちなみに、よく話題になる「読書感想文」は上位5トップに入らず、下位の同率5位に入っている)
- 教員が文章を評価するとき、小中高で重視する点が異なる。小学校教員は、児童が自分の思いを自分の言葉で表現できているか、自分が伝えたいことを伝える工夫ができているかを重視。中学校教員は、生徒が課題の目標や条件を達成できているか、学年にふさわしい表現を工夫して使用できているかを重視。高校教員は生徒の独自の視点があるか、文章が論理的・具体的に書かれているか、文章が正しく明確な日本語で書かれているかを重視。
- 「下書きやメモの段階で助言するか」という質問に対して、小学校では助言する割合が高く、高校ではその割合が低い。パフォーマンス評価では、最終稿で半数の小中教員が校正を助言していた。
こんなところが面白い調査
いやー、校種が上がるにつれての変化があって面白い。そしてこれ見る限り、やはり中高段階での書くことの指導が行き届いていない可能性はありそうだなあ。高校の新学習指導要領は書くことの意識がかなり強いのだけど、掛け声だけだと現場は変わらないんだよね。兵力がないと戦えない…。
また、アンケートとパフォーマンス評価を組み合わせる可能性も感じる。このパフォーマンス評価、もちろん現実には「この小5児童がどんな子なのかもわからないのにコメントはできない」(こちらが気づいたことのうち、どれを相手に伝えるのかは相手次第のところがある)のだけど、教師がどこに目がいくのかの意識の違いは確実に反映すると思う。
例えば、今回のパフォーマンス評価は「どのような点に注目して改善点を指摘したか」という観点で分析されているけど、仮に「この作文のどこに長所を見つけて指摘したか」という観点で分析しても、教員の意識差がとても大きく出ると思う。教師のコメントといえば改善点の指摘だと信じている人と、「できていることをできるだけ指摘しよう」と思っている人とでは、作文教育のスタンスが違うもの。
この冊子にも書かれてるけど、今回はランダムサンプリングではなく、「学会員とその周辺の小中高教員」が対象。全国大学国語教育学会の会員になってる小中校教員は、全体としては圧倒的にマイノリティかつ教科指導への興味が高い層で、そのことは調査結果に影響を与えているはず。これ、ランダムサンプリングで見てみたいなあ。どんな結果が出るんだろう。
こういう、指導の実態についての基礎的データを集める仕事、とても大事だし、僕たち現場教員にはできないことなので、とてもありがたい。今回は「試験的全国調査」とあるので、この後の展開もあるのかな。楽しみにしたいと思います!