宣伝です! 10月15日、僕が編集に関わった説明文・評論文アンソロジー、澤田英輔・仲島ひとみ・森大徳『中高生のための文章読本 読む力をつけるノンフィクション選』が刊行されます。ここでのノンフィクションとは、「説明文や評論文を中心とした、物語ではない文章」という広い意味。新しい世代の書き手を中心に、高校生が説明文や評論文を読むステップになる文章を集めました。1000円札でお釣りがくる破格のお値段。ぜひ、お読みください!
目次
ノンフィクション読書を楽しむきっかけに
この本の「はじめに」から、僕たち3人の編者の願いを書いた部分を、少しだけ引用します。
この本は、ノンフィクションを読む楽しみに出会ってほしいと、中学生以上の若い読者を主な読み手に想定して作られました。特に高校生になると、国語の教科書には「評論」と呼ばれるノンフィクションが多く掲載されますが、言葉の難しさもあってか、敬遠する人が多いようです。でも、思えば物語だって、私たちは幼い頃に読み聞かせをしてもらったり、自分で多くの物語の中から選んだりしながら、お気に入りの一冊を見つけ、親しくなったのでした。ノンフィクションにも、そういう出会いが必要です。
「評論」といえば「問題を解くために読む」のが高校生の現状です。でも、本当は評論には評論の、読み物としての面白さがある。その面白さに出会うために、読みやすくて面白いノンフィクションに出会うきっかけを作りたい。それが、僕たちが本書を作った大きな動機です。
中学教科書と高校教科書のギャップを超えるために
僕たちのもう一つの問題意識は、学習指導要領に則った中学校国語教科書の文章と、同じく則っているとはいえ、大学受験から「下りてきた」文章も多い高校現代文(現代の国語・論理国語)のギャップでした。高校生になると、いきなり難解や評論用語が頻出する文章に出会います。それが、評論への幸福な出会い方だとは思えませんでした。そこで、評論への橋渡しとして、意欲ある中学生でも読めるように、と意識して作りました。
本書の収録本の傾向
本書の特徴は、これまでの評論文アンソロジーに比べて、易しく、またエッセイやインタビューも含めて幅の広いノンフィクションの文章を収録している点にあります。ジュニア向けのノンフィクションというと、通常は「岩波ジュニア新書」「ちくまプリマー新書」が連想されますが、本書はそれよりも易しいレーベルからも採りました。
また、教室での利用も意識して「手引き」も備えつつも、「評論問題集」ではなく「読み物として面白い本」であることを目指しました。そこで、若い人たちが手に取りやすいように、比較的最近の刊行年代の作品、若い書き手の作品を意識して取っています。収録筆者は以下の通り。
上橋菜穂子、水口博也、稲垣栄洋、近藤雄生、笹原留似子、瀧本哲史、末永幸歩、岡田美智男、穂村弘、郡司芽久、伊藤亜紗、成田龍一、藤原辰史、水野敬也、オードリー・タン、藤田正勝、海老原宏美、ブレイディみかこ、菅野仁、末永明弘、苫野一徳。
近年の定番的な著者もいますが、評論アンソロジーではあまりお目にかからない著者も入れています。
「柔らかい」評論入門の一歩前
結果として本書は、評論アンソロジーとしては、例えば同じ筑摩書房の『ちくま評論選』や『ちくま評論入門』と比べて、かなり「柔らかい」本です。最初と最後には詩も掲載し、装丁も、そんなメッセージを伝える素敵な雰囲気のものに仕上がりました。本の紹介コーナー「もっと読むなら」をはじめとした短いコラムや、ジュニア向けノンフィクションレーベルの図解、仲島ひとみさんのイラストによる脚問ならぬ「ツッコミ」もあります。総じて、「評論入門」というより、「評論入門の一歩前」な本。
お値段も破格の880円+税。1000円札でお釣りがくる値段になりました。この値段が、中高生がノンフィクションの楽しみと出会うきっかけになれば、と心から願っています。
最後に個人的なことを。この本の編者3名は、長年の勉強仲間です。もう10年以上にわたって、一緒に英語の教育研究の本を読んだり、互いの授業を見たり、授業実践を報告したり、授業案に助言したりしてきました。学び合う仲間たちと共著を出すことができたのも、大きな喜びです。「評論への橋渡しが必要だ」という中高教員時代に持ち続けてきた問題意識が形になった本書、ぜひ多くの方に手に取っていただけますように。