[資料]今の子どもは授業で読む時間が足りない!? 義務教育の国語の授業時数の変遷

先日、国語教育に携わるある方から「読解力の低下には国語の総時数の低下が影響しているのでは?」ということを聞きいました。その時は「あ、そうでしたっけ?」レベルの返事しかできなかったので、これを機会に戦後の学習指導要領での国語の総時数の変遷を調べました。高校については就学率の変化や選択などの条件が複雑で意味のあるデータになりそうもないので、ひとまず義務教育期間(小学校・中学校)での国語の授業時数の変遷をまとめてみます。

小・中学校での国語の時数の変遷

小学校・中学校での国語の授業総数をまとめると以下のようになります。小学校の1単位時間は45分、中学校は50分。正確な総時間数を算出するには換算する必要がありますが、ここでは無視して、ざっくりした傾向だけ見ましょう。表の「現年齢」とは、「その学習指導要領が施行された年に新小1だった子どもの現在の年齢」を示しています。

施行年 現年齢 小学校 中学校 合計
1947(S22試案) 79歳 1260 595 1855
1950(S26試案) 76歳 2208 490 2698
1961(S33改定) 65歳 1603 490 2093
1971(S43改定) 55歳 1603 525 2128
1980(S52改定) 46歳 1532 455 1987
1992(H元改定) 34歳 1601 455 2056
2002(H10改定) 24歳 1377 350 1727
2011(H20改定) 15歳 1461 385 1846
2020(H29改定) 6歳 1461 385 1846

元データは、1947年〜2010年の施行年については文科省のこちらを参照しました。

昭和22年と昭和26年の試案では、時数は弾力的運用が可能で、ここでは下限の数値を書きました。また、昭和26年だけ時数がやたらと多いのは、この時は時数を定めず大まかなパーセンテージを目安に表示していたことも関係しているのかも。

表にすると一目瞭然。現在の40代後半〜50代前半では義務教育9年間で2100時間を超えている国語の時数が、今の10代後半〜20代前半、つまり今の高校・大学生世代だと、1700コマ強となっています。9年間で実に400時間の差、割合にして2割減。この差は少なくありません。高校生や大学生を教えている方は、知っておくべき知識かも。

どこでこんなに減少している?

どこでこんなに時数の差が出ているのでしょうか。もう少し細かく見てみましょう。

施行年度 小1 小2 小3 小4 小5 小6 中1 中2 中3
1947(S22試案) 175 210 210 245 210 210 210 210 175
1950(S26試案) 348 348 388 388 368 368 175 175 140
1961(S33改訂) 238 315 280 280 245 245 175 140 175
1971(S43改訂) 238 315 280 280 245 245 175 175 175
1980(S52改訂) 272 280 280 280 210 210 175 140 140
1992(H元改訂) 306 315 280 280 210 210 175 140 140
2002(H10改訂) 272 280 235 235 180 175 140 105 105
2011(H20改訂) 306 315 245 245 175 175 140 140 105
2020(H29改訂) 306 315 245 245 175 175 140 140 105

比較すると、国語や算数の科目以外も増える小学校中学年以降、特に高学年と中学校での減少が顕著です。ちなみにもっとも少ないH10年改訂は、学校週5日制&総合的な学習の時間新設の年で、この年の大幅減の事情はこの辺にありそう。

国語の時間の中で取り組む内容の変化

そして、国語の時間数だけでなく、その時間の使い方にも変化が生じます。1971年施行までは「聞くこと・話すこと、書くこと、読むこと」の4つだった領域が、1980年施行から「理解」「表現」の2領域に集約され、それがまた2002年施行から「話すこと・聞くこと、書くこと、読むこと」の4領域に戻されるのです。これだけなら単に「看板が元に戻っただけ」とも捉えられますが、そうでしょうか。中学校では、「読むこと」以外の各領域の配当時数の目安も示されているので、その変遷も見てみましょう。

1971年施行 中学校での配当時数
聞くこと・話すこと 各学年とも10分の1程度
書くこと 各学年とも10分の2程度
書写 1年…10分の2、2年…10分の1、3年…適宜
1980年施行 中学校での配当時数
作文 各学年とも10分の2〜10分の3
書写  1年…10分の2、2年…10分の3
1992年施行 中学校での配当時数
作文 1年…35〜55時間、2・3年…30〜50時間
書写 1年…35時間、2・3年…15〜20時間
2002年施行 中学校での配当時数
話すこと・聞くこと 各学年とも10分の1〜10分の2程度
書くこと 各学年とも10分の2〜10分の3程度
書写 1年…10分の2、2・3年…10分の1程度
2011年&2020年施行 中学校での配当時数
話すこと・聞くこと 1・2年…15〜25時間、3年…10〜20時間
書くこと 1・2年…30〜40時間、3年…20〜30時間
書写 1・2年…20時間、3年…10時間

ここで指定された以外の時間を「読むこと」に使うと単純に仮定すると、各年代で「読むこと」に充てる時間は次のようになります。

施行年 各学年の「読むこと」配当時数 「読むこと」中学総時数
1971年 1年…88、2年…105、3年…123 316時間
1980年 1年…88〜105、2年…56〜70、3年…98〜112 242〜287時間
1992年 1年…85〜105、2・3年…70〜95 225〜295時間
2002年 1年…42〜70、2・3年…42〜63 126〜202時間
2011年 1・2年…55〜75、3年…45〜65 155〜215時間
2020年 1・2年…55〜75、3年…45〜65 155〜215時間

こう書くと、総授業時数の減少以上の比率で、「読むこと」の時数が減っているのがわかるのではないでしょうか。1971年→2002年で、中学の総時数は約3分の2に減少(525→350)していますが、「読むこと」に限ると、4割〜6割程度に減少(316→126〜202)しています。ざっくりと真ん中を取れば、「現在20歳前後の人は、現在50歳前後の人に比べて、中学校での国語の読解の授業を半分強の時間しか受けていない」のです。

もちろん、学習指導要領の時数の目安通りに各校が授業をしているかどうかは怪しい。ただ、こうした配当時数は教科書の構成にも確実に影響を与えるので、今の子どもが国語の授業中に文章を読む時間は、大人世代が自分の経験をもとに考えるよりずっと短いとは言えそうです。

もちろんそれが読解力の低下に直結するかどうかはわかりませんし、そもそも読解力が低下しているのかどうかも、慎重な判断が必要です。また、「読む時間が足りない」と見るか、「バランスよく各領域を学ぶようになった」と見るかにも議論の余地はある。とはいえ、「読むこと」に限れば、まずは「今の子どもは、40年前と比べて、学校で読む時間が短い」事実を事実として認識することは大事なのかも。それを受けて、授業外での読む活動の推進や、限られた授業時間をどう使うかなど、考えられることがありそうです。たまにはこういう数字や学習指導要領と向き合うのも面白いかな?

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