ベネッセが、「読書履歴を活用したデータ分析」というコーナー内で、10月25日に読書の実態調査についてのニュースレターを出していました。一ヶ月遅れながらご紹介します。
目次
「幅広い読書」の効用についての研究
ニュースレターの内容は、幅広い読書の効用についての研究結果だそうです。
この研究の調査方法などについては僕はきちんと論評できる立場ではありませんが、どうもここでの「幅広い読書」とは「お話・読み物」「自然・科学に関する本」「社会・歴史に関する本」「生き方に関する本」の4ジャンルを指す模様。
結果として報告されている要点は以下の2点です。
- 「いろいろな種類の本」を読んでいる子どもほど、読書の効果を感じている。
多くのジャンルの本を読んでいる子どもほど学力が向上。とくに 「社会」 の成績に効果がある
この調査は6年生が対象なので、社会の授業でちょうど歴史を学ぶ時期。歴史マンガや戦国時代好きの子どもは少なくないでしょうから、特に社会で顕著な成績向上があったのは、6年生という調査時期の影響もあったのでしょう。
幅広い読書が学力向上に有効な理由は?
とはいえ、幅広い読書が学力向上に貢献することは、これまでも指摘されてきたこと(日本語で読めるものとしては、下記の本など)。それは、読書が語彙を形成し、語彙が学力と結びつくからです。
ここで大切なのは、出現語彙や語彙同士の共起関係(ある語彙と関連してどんな語彙が出現しやすいかという関係)はジャンルの影響を受けるということです。例えば、小説で出てきやすい語彙や、新聞で出てきやすい語彙がある。また、小説では「カメラ」という語から「写る」が共起しやすいのに、新聞では「防犯」が共起しやすいというふうに、文脈に応じて登場する関連語句も異なってくる。僕たちは読書をしながら、特定の語彙だけでなく、こういう語彙と語彙の関係を含んだ文脈のバリエーションも、知識として獲得します。「小説しか読まない読者」と「小説も新聞も読む読者」では、獲得できる語彙知識の体系が異なってくるわけです。多くのジャンルに接している読者であるほど、豊かな語彙知識の体系を手に入れ、それが全般的な学力に結びつくのでしょう。
ノンフィクションの読書が文章理解力に与える効果
また、本研究に関連した別の研究としては、上田・猪原・塩谷・小山内(2017)があります。こちらは、小学校3年生を対象にした研究で、ノンフィクションの読書が文章理解力の正の影響を及ぼす(絵本や物語は正の影響を持たない)と結論づけています。物語が正の影響を持つという先行研究とは異なった結果なので今後の研究の進展を待ちたいところですが、「読書=物語」という先入観を外して、ノンフィクションを読むことの重要性を示唆しているとも考えられます。
小6への読書アンケートも注目
さて、冒頭のベネッセの調査では、小学6年生を対象にしたアンケート調査の結果も公開されていました。
こちらもなかなか面白かったので、気がついたことを羅列してみます。
- ほとんどの子は読書が好き(「とても好き+まあ好き」で9割)。
- でも、すでに男女差が出てるっぽいのが面白い(基本的に、10代の男子は女子に比べて読書が好きでない傾向が、英語圏でも指摘されています)
- 地域の公共図書館で本を借りない子が半数もいることを考えると、学校図書館の役割は大きい。
- ほとんど(95%程度)の子が、本を「最初から最後まできちんと読む」。これは、そう教わってるのかな、どうだろう。
- お勧めの本を紹介してくれる学校の先生は、35%くらいしかいない(え、少ない!)
読書、好きな小学生が多いんだなー。これが中学、高校と校種が上がるにつれてがくんと読書する子が減っていくのは、やはり責任を感じちゃうなあ…。
読書調査に関する関連エントリもどうぞ
今回のエントリではベネッセの調査を紹介しました。なお、このブログでは、僕の個人的関心から、時折こういう読書についての調査結果や資料を紹介しています。興味のある方は下記エントリも合わせてどうぞ。