アメリカのニューオーリンズで開催中の国際リテラシー学会(International Literacy Association conference 2019)2日目。今日はカンファランスについて考えたり、自分のポスター発表をしたりの一日でした。
カンファランスのセミナーに参加しました
この学会は、いわば日本の「日本国語教育学会」の国際版。アメリカを中心におよそ5000人程度の教員が参加するので、現場教員向けのセミナーも多数開かれています。学会2日目で一番印象に残ったのは、読みの教育における「コーチングとカンファランス」(Coaching and Conffering)というセミナーでした。
このセミナー、登壇者はDr. Mary Howardさん、Laura Robbさん、Nancy Alhavanさんの3名。肩書きはいずれもリテラシー・コーチとかコンサルタント。こういう職業が成り立つんだな、というのがまず驚きですが…(笑)
さて、昨日のフィッシャー&フレイのワークショップや書店コーナーを見ても、カンファランス(Conffering, Conference)という言葉はアメリカの国語教育では教育の形態として一般的のよう。もっとも、日本国語教育学会の報告が日本の平均水準ではないように、ここでもきっとそうなのでしょうけど、日本ではカンファランスに焦点を絞ったセミナーに参加できることはまずないので、ありがたいことです。
3人のスピーカーのうち、僕が一番共感を持って話を聞けたのはLaura Robbさん。この方は長年中学校で教えていらして退職されたおばあちゃんで、リテラシーについての著作もたくさんある方です。
ローラは、カンファランスでは「あなたが生徒と話したいことを話すべき」という原則を掲げた上で「この本のテーマやメインになる考えは何?」という質問は避けるべきとします。具体例を見ても、「この本を読んでどう思った?」「どうしてこの本が好きなの?」「誰に紹介したい?」「一人で読んでみる経験はどうだった?」などと、読み手の個人的な感情を聞いて、体験を振り返るカンファランスが中心でした。
対照的だったのがその後に発表したNancy Akhavanさん。ナンシーは、昨日のフィッシャー&フレイのワークショップにもスピーカーとして出ていた方です。ローラの後を受けた彼女が、要点を把握するためのワークシートの話からスピーチを始めたので、「この2人が同じ場で話をするのか」と、思わず笑ってしまうほどでした。個人的な読書体験を聞くローラとは対照的に、ナンシーのカンファランスは、本の理解度のチェック、発音の間違いチェック、理解のための方略のレッスンを教えることが中心。「フィードバックは効果的!」とハッティを引用するところも含めて、昨日のフィッシャー&フレイと同じ(下記エントリ参照)。昨日のワークショップを振り返りつつ、たぶん、こちらの方がリテラシーの研究成果に基づいた今の「トレンド」なんだろうなあ…と思わせるものでした。立派なウェブサイトを持っているのもフィッシャー&フレイと同じ。
自分の方針には限界もあるよなあ…
基本的に、僕はナンシーのカンファランスのやり方はあまり好きになれないんですよね。僕自身も、国語の授業で読書をするのは学力向上のためと思っているのですが、それでも趣味としての読書、個人の楽しみとしての読書に引っ張られているのでしょうか。セミナー後にナンシーに「カンファランスする本は読まれてるんですか?」と聞いた時に「忙しくて無理。カンファランスする時にチラ見するだけ」と答えられたことも含めて、ナンシーのやり方は好みではない。
一方で、僕は「教師自身が読み書きを続ける存在であること」に縛られすぎているのかも…とも思いました。僕は、リーディング・ワークショップのカンファランスでも「教師が子どもが読んでいる本を教師も読んでいること」を、実際にはできないのを承知で目指したいと思う。それは、おそらく自分が子どもの頃から読み書きが好きで、そのおかげで力がついたと思っていることの影響なのでしょう。だから、教師にも読み手・書き手であることを求めてしまう。
とはいえ、自分が個人的に目指すのは自由だけど原理的には不可能なことを目指すのってどうなのと言われたら返答に詰まるし、まして同じリーディング・ワークショップをやる教師に「教師も読みましょう」と求めるのはちょっと酷かもしれない。おそらく多くの教師に支持されるのは、「本は読まない、理解度をチェックする」ナンシーのやり方なんじゃないかな。現実的だし、「教えてる」って感じがするし…。このへんは、風越学園ではどうしようということも含めて、色々と考えてしまいました。本当、カンファランスもいろいろだなあ。
午後は自分のポスター発表、貴重な経験でした
この日の午後は、僕と共同研究者の東洋大学・勝田光先生のポスター発表。一応、今回の学会の主目的でした。内容は、前任校時代の僕の教室に勝田先生がいらっしゃって記録やインタビューをしたものの分析です。1時間の持ち時間で来訪者数が10人弱と少なかったのは残念でしたが、「異なる学校文化やクラスサイズを持つ国でリーディング・ワークショップがどのように受容されるか」という事例として、来てくださった方とは色々とお話ができて、楽しかったです。こちらの拙い英語にもみなさん付き合ってくださって感謝。
留学期間中に参加したエクセター大学での学会を除くと、これが僕にとっては初めての国際学会での発表でした。あまり緊張せずにすむポスター発表というやり方で、しかも勝田先生と二人でできて、なんだか補助輪付きで自転車の練習をさせてもらった感じ。ここまで連れて来てくださった勝田先生には感謝しかありません。
夜には、お疲れ様会として、ニューオーリンズ・ジャズを聴きながらミシシッピ川のディナークルーズ。2年後くらいには新しい現場での実践を元に、もう少しフォーマルな発表を国際学会で二人でやりましょう、という話も出ました。今回の様子なら、次は個人でポスター発表してもいいかなあ。何れにしても、英語を勉強しなきゃだな….と、わかりやすく英語学習のモチベーションが高まってます(笑)
さて、学会も僕が参加できるのはあと1日。いくつかのセミナーに出て、勉強してきます。
カンファランスの内容はその生徒の読みのレベルで変わってくると思っています。日頃から本のことで私に話しかけてくる生徒は、何も言わなくても、ストーリー展開を話し、自分が引っかかってきたところを話してきて、テーマに関わる話になりますし、それほど読んでなかったけど、このごろ読むことが楽しくなってきたのかなという生徒には、励ますような言葉かけが多くなる気がしています。最初のやり取りの中で、内容か意欲か環境かくらいのパターンに分かれるかなと思いますが、カンファレンスのことをちゃんと学んだわけではないので、2年間週1でやった感覚でしかありませんが。
ありがとうございます。相手に応じて、ということですよね。こちらがカンファランスで何を目指すのかという方向性は、やはり意識していた方がいいのかなあと思います。本について楽しく話して意欲を育てるのか、具体的な読み書きの技術を教えることを目指すのか、それによって、カンファランスの方向性がずいぶん違うのかなあ、と。