[読書] 「初めての国際バカロレア」に最適の本。坪谷ニュウエル郁子「世界で生きるチカラ」

2020年の大学入試改革とともに近年語られることの多い「国際バカロレア」。坪谷ニュウエル郁子さんの『世界で生きるチカラ 国際バカロレアが子どもたちを強くする』は、その「国際バカロレアってなんなの?」という疑問に答える一冊である。田口雅子『国際バカロレア』(下記エントリ)と比べると、特定の科目に偏らずに全体像を示しているし、とても読みやすい文体で書かれているので、最初の一冊としておすすめ。

[読書] 国語教師は読んで損なし。田口雅子『国際バカロレア 世界トップ教育への切符』

2017.02.07

この本の構成は大きく分けて次の3つ。

  1. 時代の変化を受けた大学入試改革などの、バカロレア導入の「背景」の話
  2. 時代の変化を受けて、どのような資質・能力が必要かという「学習者」の話
  3. その「学習者」を国際バカロレアがどう育てているかという「カリキュラム」の話

背景や学習者像の話は、教員はもうどこかで聞いたことのある話だと思う。ここは主には一般の方向けの話。教員の僕が読んでて面白かったのは、「で、国際バカロレアって何よ」に当たる、バカロレアのカリキュラムの話だ。幼稚園・小学校レベルのPYPコース、中学校レベルのMYPコース、そして高校レベルのDPコースと、それぞれについて説明してくれているので、国際バカロレア機構がどのような学習者像を持っていて、それをどのように育てようとしているか、概要を簡単につかむことができる。

何より興味深いのは、PYPコースは東京インターナショナルスクール、MYPコースは玉川学園、DPコースは立命館宇治高校と、それぞれの具体例や児童・生徒の声が紹介されていることだ。もちろん実際には書かれていないことが色々あるのだろうけど、国際バカロレアではどういう授業が良い授業とされているかの授業観がうかがえて面白い。

このあたりを読んでいて興味深かったのは、「DPよりもPYPやMYPの方が、授業者の創意工夫を活かす余地が大きくて面白そう」ということ。以前、田口さんの本を読んだ時には「教師の教材選択の余地がなくて、自由な感じではないなあ」と思った部分もあったのだけど(下記エントリ参照)、PYPやMYPの方がずっと面白そう。僕が授業者ならこっちの方がいいなあ。

[読書] 国語教師は読んで損なし。田口雅子『国際バカロレア 世界トップ教育への切符』

2017.02.07

また、やはり気になったのは「日本の一条校でDPをやる場合に、国際バカロレアの試験対策と日本の大学入試対策をどう両立させるんだろう」ということ。いくつかの大学で国際バカロレアの得点を使えるところが出てきているとはいえ、まだまだ厳しそうなだけに気になる。国際バカロレアは国際バカロレアで試験対策が必要っぽい雰囲気だし、なかなか大変じゃないかなあ、これ。この辺はぜひ「実際はこうなんですよ」みたいな関係者の裏話を聞いてみたいところだ。

著者のバックボーンとしての国際バカロレア

この種の外国の教育事情本って、いろんな意味でゆとりのある著者とその家庭の、結局は高所得者・高学力者向け教育の体験談に終わることもままある気がする。(こんな例示の仕方で著者に申し訳ないけど、最近、哲学対話の本かと思って借りたら違っていた「哲学する子どもたち」にもそんな読後感を抱いた)

この本にしても、国際バカロレアも現状は私立学校が中心だし、著者の坪谷ニュウエル郁子さんもインターナショナルスクールの経営者なので、似た雰囲気もある。でも、この本の場合は、坪谷さんが同時に軽度発達障害などを抱える子供達のためのNPO法人「インターナショナルセカンダリースクール」も手がけていたり、バカロレア機構の理事を勤めていたりする点が異なる。きっと著者が親や教師としての経験から育んできた教育観と、国際バカロレアの親和性が本当に高いのだろう。国際バカロレアのプログラムの良さと可能性をこの人が本当に信じていて、それを一部の富裕層だけにとどまらず、普通の公立学校にも広めたいと思っていることが伝わってくる。

きちんと理念をバックボーンとして持っている著者による国際バカロレアの紹介本。国際バカロレアについて初めて読むという人にとっては、最良の一冊になるのではないだろうか。

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2 件のコメント

  • 私も最終的に試験対策にならないか?と思い、公立でバカロレアのDPやっている学校の先生にお聞きしたことがあります。試験はコース全体の学習目標なので当然これまでの学習があってのことではありますが、どうしても最終学年は試験対策になってしまい、学びの楽しさが生徒のモチベーションだったのが、試験をパスすることに変わってしまいそこが課題といわれていました。高大接続が進み多面的評価になってもなんらかの質保証は必要なので、日本の大学入試用、バカロレア用という現在の負荷は下がると思いますが試験対策の色合いはかわらないのではないかと思います。もっと安価に日本の教育のよさも組み合わせたプログラムがつくりたいですね。

    • 「学びの楽しさが生徒のモチベーションだったのが、試験をパスすることに変わってしまい」、なるほど、これは大いにあり得る話だと思いました。公立でバカロレアのDPやっているというと都内のあそこでしょうか? 近々図書館を訪問する予定です!