ある程度作文教育の経験がある人なら多くの人が納得するのが、「添削や教師のコメントは決して『間違いを修正する』ことではない」ということだ。えてして初心者は全ての間違いにいちいち赤を入れたくなるが、生徒はそれを一度に処理しきれないし、モチベーションも下がる。そのような添削・コメントが非効率的であることは、僕もかつて添削指導について書いた以下のエントリで触れている。
逆に、「とにかく褒めて励ます」という方針で添削をする人もいる。これは、おそらく「間違いを全て修正する」よりは効果的だ。ただ、注意すべきこととして、その場合にも「良いね!」とか、「面白い」などの褒め方はよくないという見方もある。カンファランス(作文を書くための対話)に焦点をあてたMark OvermeyerのLet’s Talkでは、「漠然とした賛辞で生徒を褒めてはいけない」と断った上で、カンファランスでのフィードバックのコツを次のように整理している(pp12-19)。
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著者のオーバーメイヤーによると、効果的なフィードバックのコツとしては、
1)書き手はどこに向かっているのか?2)書き手はどうやってそこに向かうのか?3)書き手は次に何をすればいいのか?
の3点を意識することが大事だという。まずはこの3点のポイントを簡単にまとめてみよう。
1)書き手はどこに向かっているのか?
まず、書き手は作文の目標を明確に知っている必要がある。この目標が全てのフィードバックの出発点になる。教師は、生徒の書き手としての状態を知ることを目的に質問をすること。
2)書き手はそこにどうやって向かうのか?
この部分がカンファランスが一番効果を発揮する部分。まずは、カンファランスの目的をはっきりさせて、それを達成するように意識する。また、教師から質問するのではなく、生徒がカンファランスのゴールを設定するのも良い。
そして、ここでのコメントは、実際に次の行動につながることが最も重要。「良く書けている!」という漠然とした褒め言葉やルーブリックは、この点で良くない。フィードバックする上では、作品の良し悪しを全体としてジャッジする必要はない。
なお、フィードバックはタイムリーであることが非常に重要だし、以前に与えたフィードバックと関連づけたり、過去の作品と関連づけたりすると有効である。
3)書き手は次に何をすればいいのか?
カンファランスの終わりには、次の長期目標を設定する。この時には作文についてだけでなく、書き手としての生徒についての知識を教師側が充分に持っていることが鍵になる。
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この説明の中で、2)については特に漠然とした褒め言葉がダメな理由を述べている。
・生徒が教師の賞賛に頼るようになって、主体性を失うから。・単に褒めても、なぜいいのか生徒が納得できていなければ再現性がないから。・自分たちの作文が良いか悪いかの判断基準は、自分たちで持てるようにすべきだから。
どれももっともな理由だ。僕たち教師はつい「生徒の作品の良いところを褒めよう」と褒めたがってしまうものだけど、フィードバックの目的は褒めることでも、まして作文の良し悪しの判断能力を生徒から奪うことでもない。曖昧になんとなく褒める、というのは避けるべきなのだろう。
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ここでのオーバーメイヤーの記述には、やはりカンファランスの本を出しているカール・アンダーソンの方針と共通している部分も多い。ゴールを明確にし、書き手の今の状態を把握し、次になすべきことにつなげる、というのが、二人に共通した骨格だ。このへんは見習ってみるといいのかもしれない。