カール・アンダーソン(Carl Anderson)というライティング・ワークショップの教師がいる。主に、カンファランスについての本を出版している教師だ。僕が読んだのはこれ。
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ライティング・ワークショップは、プロセス・アプローチという「(書かれた文章ではなく)文章を書くプロセスへの指導を重視する」 作文教育法の一つなのだけど、このプロセスへの指導の中で代表的なものが、教師の生徒への個別指導である「カンファランス」である。
しかし、日本語のライティング・ワークショップの紹介本であるフレッチャー『ライティング・ワークショップ』を読むと、このカンファランスは教えるというよりも「生徒の話をよく聴くこと」「励ますこと」が中心のように思えてしまう。
別にそれが間違いというわけではないのだけど、それはあくまで一つのやり方。カンファランスは、人によって様々なのだ。
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たとえば、カール・アンダーソンのカンファランスの流れは基本的に以下の通りである。
①生徒を知る
様々な形で情報収集する。
「できていないこと」ではなく「できていること」に注目するのが大事。②生徒にどうなって欲しいかをイメージする
教師自身が理想像を持つことが大事。これがないと③のニーズがつかめない。
③生徒のニーズをつかむ、何が必要かを見定める
理想像と照らし合わせて、生徒に必要なものを見つける。
④個々の学習プランをデザインする
生徒にやるべきことを指示する。
基本的姿勢は生徒にtailor(個々に仕立てる)すること。
この流れに従うと、教師がやるべきことは、生徒から情報収集し、自分の理想の書き手像と照らし合わせて教えるべきことを決め、それを教える、ということになる。だから、アンダーソンはカンファランスの前半では生徒にどんどん質問して情報を引き出すが、後半では一転して「次はこれこれをしなさい、いいね?』とやるべきことを指示して去っていくのだ。「カンファランスは教えずに生徒を支援する」「教師の役割はファシリテーター」というイメージでいる人は、「こんなに教えこんでいいの?」と戸惑うかもしれない。
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しかし、このアンダーソンのカンファランスは、たいへんシンプルで、それだけに強力な枠組みだと思う。僕自身、教え込むことが悪いとは思わない。こうした方が良いと教師が確信できるのであればプロフェッショナルとして伝えればいいと思うし、また、全て質問だけで通すスタンスだと時間がかかってとても全ての生徒を見られなくなるという時間的制約もある。ちなみに、以前に下記エントリで書いたが、アトウェルもカンファランスではためらわずに教えている。
ということで、カンファランスをどう行うべきかについて、アンダーソンのこの本は大変示唆に富んでいるし、実践的だ。個人的にも読んで良かったと思える本の一冊と言える。フレッチャー『ライティング・ワークショップ』でのカンファランスが「正しい姿」と思って、「教師は聞き役に徹しなきゃ、でも時間がない…」「カンファランスで本当に教えなくていいの?」と迷っている人にもお薦め。 [ad#ad_inside]