[読書]「言葉が世界を作る」ことを改めて考えさせられた、2018年11月の読書。「物語としてのケア」はお勧めです。

勤務校ではいま期末試験の真っ只中。僕も忙しいシーズンを迎え、少し遅くなってしまったのだが、11月に読んだ本の記録をまとめておきます。今月のベスト「物語としてのケア」「豊かな人生を引き寄せる「あ、これ美味しい!」の言い換え力」は、国語の教員の方は読んで損のない本です!

11月のベストは「物語としてのケア」

11月、最も高得点の本は野口裕二「物語としてのケア」。「人間は自己という物語の世界を生きている」「その物語は、言葉で語られることによって成立する」という認識をベースに、病を「語り」という側面から見ていく臨床実践の本である。

前に軽く目を通した本で、今回は下記エントリで触れたとおり、中島敦「山月記」と一緒に読む教材にと思って、じっくり読んだ。

小説で単元学習を組み立ててみた雑感(二学期後半の授業から)

2018.12.01
私たちが世界との関係を言葉によって作っていること、そして言葉を変えること(語り方を変えること)が私たちの世界認識に決定的な影響を与えることが、改めて感じ取れる一冊だ。主に3つのナラティブ・アプローチの臨床実践が紹介されているのだけど、とりわけ、「問題の原因を自分の中に探す語り」から、問題そのものに名前をつけて外在化させることで、自分と問題の間に新たな関係を取り結ぶ、ホワイトとエプストンの実践が興味深い。名付けるという行為の魔法のような力を感じる。

これを読むと、「山月記」の李徴も、「自分の中に問題の原因を探す語り」というドミナント・ストーリーから、それとは違うオルタナティブ・ストーリーに移行できていたらなあ、と思ってしまう。旧友の袁傪は、李徴のストーリーの良き聴き役ではあったけれど、別の物語の可能性を提示しようとはしなかったから。

このシリーズ「ケアをひらく」、これまで僕は3冊読んだのだけど、3冊とも面白く読んだ本だった。いいシリーズなのかな。

読んで楽しい、食の語彙に注目した「「あ、これ美味しい!」の言い換え力」

「言葉」つながりで紹介するのは、福島宙輝「豊かな人生を引き寄せる「あ、これ美味しい!」の言い換え力」。僕はもともと感覚的な表現を使って文章を書く観点から、食べ物のエッセイを教材化したいなあ(というより食レポを書く授業をやりたい)と思っているのだけど、この本はまさにうってつけの本だった。「味覚をどのようにして言葉にするか」ということに徹底的にこだわった本である。

いやあ、味覚の表現ってこんなに多彩なのか、と驚かされますね。この本では日本酒、コーヒー、ワイン、チョコレート、ラーメンなどの料理について語るときに特徴的な言葉(オノマトペ、形容詞、形容動詞、動詞、名詞)がずらっと紹介されていて、特徴的な共起表現までカバーされている。例えば僕たちがチョコレートの味を表現するときにどんな表現が使われているのか、この本を読むと一目瞭然なのだ。

また、この本がユニークなのは、「食べ物の表現を豊かにするための方法」に踏み込んでいるところ。例えば、「ベースの味とサブの味」というフレームを持ちつつ、その関係性(寄り添うのか、隠しているのか)や力の及び具合(持ち上げる、切る)を語ることで、味覚を豊かに語れること(例:「酸味が甘みの広がりを切って、爽やかな後口が広がります」)、「序盤」「中盤」「後半」という時間軸で捉えるだけでも味の表現の幅が広がることなど、「こんな枠組みを使うと味覚を豊かに語れますよ」というフレームを提供してくれる。こういう型を身に付けることは、表現力を高める上でとっても大事。この型を使って、みんなで同じ食事を食べてレポートを書くワークショップをやりたいよう….!

今月は、この2冊に加えて別エントリで紹介した「暴走する能力主義」が「3強」を形成。毛色は違うけど、どれもおすすめです。

[読書]「新しい学力」についてあれこれ言う前に読んでおくべき本。中村高康「暴走する能力主義」

2018.11.08

蜂飼耳さん訳の古典2冊も素敵でした

自他ともに認める古典素人のあすこま。今月は蜂飼耳さん訳の古典新訳文庫「堤中納言物語」「方丈記」を読みました。方丈記は原文も読んだけど、堤中納言物語は現代語訳だけ。この二冊、とても素敵ですね。特に「堤中納言物語」は、「虫愛づる姫君」「貝合わせ」のような超有名なものしか知らなかったのだけど、それ以外の短編がどれも現代のちょっと気の利いた短編小説のようで、こんなに面白いのかと今更びっくりしました。そして、この魅力を引き出しているのが、蜂飼耳さんの解説エッセイ。「なるほど、そう読むのか、確かに!」とうなずく視点が散りばめられていて、これを読むと堤中納言物語が好きになること間違いなし。これはちゃんと古典で読みたいなあ。

第3巻も面白い!「橋のない川」

一月に一冊ペースで読むことに決めた「橋のない川」は第3巻。この巻で、シベリア出兵を背景に米価が高騰し、ついに米騒動が起きる。そういう世相を背景にしながら、被差別部落の小森はどう生き残るのか。お寺の「秀ぼん」の父・秀賢住職が、エタが差別されないように風紀改善運動を起こし、それがかえって村の中で意見の対立を生む場面が切ない。エタだから何をやってもどうせ差別される、という側と、「自分たちが差別されるのにはそれなりに理由がある」と「改善」しようとする側と。お兄ちゃんの誠太郎はついに徴兵されてシベリア出兵に行きそうだし、次の巻も気になる! 今月の小説はこの橋のない川がベストかな。本当に筆力のある作家さんだと思う。ぐいぐい引き込まれる。

今月は他にも小説を2冊読んだんだけど、そっちはなんかイマイチだったのでここでは書きません…。

論理の基本を漫画で学ぶ「それゆけ!論理さん」

畏友・仲島ひとみさんの著作「それゆけ!論理さん」。個人的つながりをさておいても、マンガと、結構しっかりした解説と、時々クスッと笑える問題演習がついてて、野矢茂樹さんの「論理トレーニング」だとハードルが高い層にはぴったりではないだろうか。「日常言語の含意」とか、論理を突き詰めるとちょっとおかしいことになるよね、という話は、国語の教員としてもとても大事なことだと思う。

他のノンフィクションでは、別エントリで紹介したこちらの本も。こちらも日常に広がる役割語の世界について分析した本で、面白い。食べ物の表現もそうだけど、こういう方面へのアンテナを張っておきたいな。

本当に短い書評集、marie「原稿用紙1枚で好きな本を紹介していきます」

最後に、ちょっと毛色の変わったところから。marieさんの「原稿用紙1枚で好きな本を紹介していきます」。これ、kindle版のみの書評集です。

ところが、これが素敵なんですよ。タイトル通りとても短い書評集なのだけど、短い中に体言止めや文の長短のコントロール、比喩のうまさなどがあるせいか、短い文章がどれも生き生きとしてて、紹介されている本を読みたくなる。これ、きちんと分析して自分で書評を書く授業なんかに使えるんじゃないでしょうか。実は甲斐利恵子先生に紹介していただいた本で、多読な甲斐先生、Kindle限定のこんな本まで見つけて読んでいるのか、と、ちょっと舌を巻いた次第。

という感じの11月の読書でした。こうやってみると、なんだかいかにも国語の授業にどこか関係しそうな本ばかり読んでしまっているな…読書の幅が狭くなってる。イカンイカン。12月は採点やらで忙しいから、どこまで読めるかな。でも、いい出会いがあることを祈って!

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