前回のエントリでお勧めしたイギリスの地方都市への旅行。でも、世界有数の観光地のロンドンを離れ、電車で地方まで行くのは何かと心配も多い。そもそもどうやってチケットを買うの?から始まって、知っておくと便利な小ネタまで、妻の協力をもとに、あすこま一家がこの一年で得たイギリスでの鉄道利用の豆知識を書いてみよう。
目次
本エントリの構成
本記事の構成は以下の通り。ロンドンから地方に向かう際に利用するナショナルレイルの基礎知識、切符の購入、割引サービス、切符受け取りと当日の注意点について説明します。普段のこのブログの想定読者層とはまるで異なる話題だけど、イギリスに旅行に行く人に参考になれば幸いです。
- ナショナルレイルの基礎知識
- 切符購入の基礎知識
- 各種割引サービスを利用しよう
- オンラインでの購入と受け取り
- 旅行当日の注意点
1.ナショナルレイルの基礎知識
- ナショナルレイルとは何か
- 複数の会社がそれぞれの地方を走る
- 鉄道かバスか
ナショナルレイルとは何か
イギリスにはかつて「国鉄」としてブリットレイルがあったが、1990年代に民営化されて、いくつかの会社で分割運営されている。これらは総称してナショナルレイルと呼ばれている。赤い二重矢印「ダブルアロー」がトレードマーク。
イギリスの鉄道ではロンドン交通局(Transport for London)が運営するチューブ(地下鉄:アンダーグラウンド)がよく知られているが、これはロンドン限定の交通手段でナショナルレイルとは別物。ロンドン交通局の路線とナショナルレイルを混同しないように注意が必要だ。例えば、ロンドン内の地下鉄・バスは11歳以下無料なのに対して、ナショナルレイルは5歳以上は切符購入が必要だ。また、ロンドン市内の交通機関の乗り降りに便利なオイスターカードも、ロンドンを出ると使えなくなるので注意しよう。
複数の会社がそれぞれの地方を走る
ナショナルレイルでは、イングランド中部を走る「クロスカントリー」、ロンドンからスコットランド方面への長距離を走る「イースト・コーストライン」、イングランド南西部を拠点とする「ファースト・グレート・ウェスタン」など、いくつもの会社がさまざまな列車を運営している。また、受けられる割引サービスなども会社ごとに異なる。
よって、ターミナル駅も「どの方面に向かうか」によって異なる。スコットランド方面に行くならユーストン駅かキングスクロス駅が基点、南西部に行きたいならパディントン駅が基点、といった具合である。南西部エクセター在住の我が家にとってロンドンの玄関口はパディントンだった。
鉄道かバスか
高速鉄道が日本に比べて発達していないイギリスでは、バス(コーチ)と鉄道でかかる時間差がさほど無かったりする。値段はバスの方が安いので、多少の居心地の悪さを我慢して、長距離移動にバス(コーチ)の方を好む人も多い。駅も、バス・ステーションがたいてい街の中心(シティ・センター)にあるのに対して、鉄道駅は町はずれに置かれていることがままある。本エントリは電車についての記事だけど、気になる人はバスの検討も合わせてどうぞ。
megabus
national express
http://www.nationalexpress.com/home.aspx
2.切符購入の基礎知識
イギリスは日本の鉄道切符と比較して、かなり料金変動が激しい。乗降駅が同じでも切符購入時期や乗車時間帯によって値段が異なる。そして、日本よりも概して高めである。であるから、できるだけ安く購入できるよう工夫することが大切になってくる。ここでは、切符購入の基礎知識についてまとめよう。お得な割引サービスについては次の見出しで扱う。
切符は可能な限り早期にオンラインで購入
長距離切符は基本的に早くとればとるほどお得。12週間先まで予約できるので、予定がきまり次第できるだけ早期にとろう。鉄道会社によっては一定時期より前までに長距離切符を購入するとアドバンス・チケットという早期割引が適用されてかなりの節約が可能になる(2週間前くらい前までに予約するとぐんと安くなる印象)。一方で、キャンセルや変更はできないことが多いので注意しよう。
基本的には往復切符を
往復割引がかなりきくため、基本的には往復切符をとった方がお得。イギリス人に聞いたところ、昔は往復と片道がほぼ同額ということも珍しくなく、片道を買うのがバカバカしくなる程だったらしい。民営化以降、その状況は変化しつつあるとのこと。色んな価格帯の切符があるので、安い片道切符をそれぞれ買った方が、結果として往復を買うよりお得になるケースもある。
切符が安い時期、高い時期
切符の値段は日本と違って時期や時間帯によっても変動する。ホリデイの期間は値段が高く、閑散期は安い。夏期休暇、イースター休暇、クリスマス休暇に加えて、学期の中休み(ハーフターム)の間も料金は高めになる。また、オフピークの切符は、ピークタイムの時間帯に乗れない代わりに、料金が安くなる。ピークタイムとは月~金の朝9時までの場合がほとんど(鉄道会社により異なる)。休日に出かける場合には、ほとんどこのオフピーク切符にお世話になるはず。ただし、「Off Peak」と書かれた切符で平日9時以前の電車に乗ったりすると、罰金を支払うはめになったりするので要注意。
途中下車は基本的に不可
基本的にストップオーバー(途中下車)はできない。これは、鉄道会社や切符の種類により条件が異なるらしいが、まずできないと思った方がよい。実際にストップオーバーが可能な融通のきく種類の切符もあるそうだが、かなり高くつくため、結局は下車したい駅までとそこからの片道切符をそれぞれ買う方が現実的。
3.各種割引サービスを利用しよう
上記の往復割引やオフピークを組み合わせた割引(オフピーク・リターン)の他にも、ナショナルレイルには様々な割引がある。特に家族での長期滞在や旅行となると、この割引を利用するかどうかでお得度がかなり異なる。ここで紹介したいのは、次のサービスだ。
- レイルカード
- ブリットレイルパス
- PLUS BUS
- 2 for 1
レイルカード
留学などで数か月滞在する場合は、レイルカードの購入がおすすめ。1年間有効で30ポンドかかるが、30パーセントの切符割引を受けることができる。電車がメイン手段でよく旅行する、という人なら、あっというまに元を取れると思う。
レイルカードにも各種あり、16~25歳なら誰でも買える「16-25 railcard」、夫婦や友達など特定の誰かと一緒に旅行するときに使える「Two together railcard」などがある。子供が2人いるあすこま家は「Family&Friends railcard」を購入。これは、家族や友達と一緒に旅行するとき、大人は30%、子供は60%の割引が受けられるというものだ。旅行者に必ず1人は子供が含まれていないといけないが(大人だけでは使えない)、子供のいるご家庭には強力にお勧めする。家族だけでなく同行の友達にも割引が適用されるので、ご近所さんと一緒に旅行するときにもお世話になった。
ブリットレイルパス
外国人観光客を対象に販売されているのが、ブリットレイル・パス。ブリテン島全域をカバーするものから、スコットランド限定、ロンドン近郊限定、イングランド南西部限定など、さまざまな種類があり、有効期間も1日~1ヵ月間と幅広い。ナショナルレイルのほぼ全ての電車(ユーロスターなどの特急は除外)に乗り降り自由で、ピークタイムにも使用可能。いちいち切符を買うのが面倒な人には良いと思う。ただし、それなりの値段なので、一定以上の頻度で電車を乗り降りしないと元が取れない恐れも。
うちはロンドンについた後、このパスを利用してストラトフォード・アポン・エイボン、エジンバラ、湖水地方、エクセターとイギリス内を周遊した。参考までに、フレキシー3日間(自分で好きな使用日を3日指定できる)・2等客席のブリットレイル・GBパスで大人1人約170ポンドだった。北部エジンバラから南西部エクセターまで大縦断の旅程だったのと、子供2人連れだったので、十分に元はとれた。前述のとおり、ナショナルレールでは5歳以上から料金がかかるが、このブリットレイル・パスを持っていると、正規料金の大人1人につき子供1人が無料となるので、かなりお得だった。うちの子供たちは、手数料80ペンスのみでブリテン島を縦断したことになる。ファミリーにはおすすめです。
PLUS BUS
鉄道で出かけて、さらにバスで周遊・・・という時に役に立つのが、「PLUS BUS」。これは、鉄道切符との組み合わせでバスの切符を安く販売するもので、イギリスのたいていの都市(290のcity及びtown)で使用可能なサービスである。これを使うと、交通費がかなり抑えられる。
PLUS BUSの買い方はしごく簡単、電車の切符をオンラインで購入するときに、「PLUSBUSもあわせて買いますか?」とオプションが出てくるのでチェックを入れるだけ。そうすれば、当日発券の際に電車の切符と合わせて入手できます。
2 for 1
ロンドンや他の都市で、知っているとお得な割引が「2 for 1」。これは、ナショナルレイルの切符を持っていると、各アトラクションでの料金が「2人で1人分の料金」になるというもの。ロンドンの人気アトラクション、ロンドン塔やマダム・タッソー館、ロンドン・アイやタワーブリッジなどにも有効のほか、特定レストランでの飲食にも使えるので、物価の高いロンドンでは非常に魅力的。(ただし、対象アトラクションは時期により変わる)
「2 for 1」を利用するためには、利用したいアトラクションのバウチャーをウェブからダウンロードして必要事項を記入し(ナショナルレイルのサイトで入手可能)、当日現地で電車の切符と一緒に見せるだけ。
「2 for 1」に有効な電車の切符でなくてはいけない点に注意。たとえば、9月1日の片道切符を持っていたとしたら、9月1日しかこのサービスは使えない。9月1日にロンドンに行き、5日に帰る往復切符を持っているなら、9月1~5日までの5日間、サービスを利用できる(当然切符を2枚見せる必要がある)。
ロンドンしか行かないという人でも、ロンドン市内交通の地下鉄・バスに使える「トラベルカード」を「ナショナルレイルの駅で発券した場合」は、2 for 1割引の有効チケットとなる。注意しなくてはいけないのは、同じトラベルカードでも地下鉄駅で買ったものは無効、という点(ややこしい!)例えば、トラベルカードを「ナショナルレイルのパディントン駅」で買った場合はOKだが、お隣の「地下鉄パディントン駅」で買ったら2for1の割引は受けられない。赤いダブルアロー印がついたものだけが有効!
4.オンラインでの購入と受け取り
チケットを予約できるウェブサイトは複数ある。
east coast
https://www.virgintrainseastcoast.com/
trainline
takethetrain
https://www.takethetrain.co.uk/apps/WebObjects/TTT.woa/wo/0.0
各サイトによって、カバーしている鉄道会社が違うので、色んな路線を検討したり安い切符を見つけたりするには、複数あわせて検索するとよい。あるサイトで売り切れていた割引チケットが、別のサイトではまだ残っていた!ということもある。なお、後で書くが、普通に電車遅延が起きるので、余裕を持った移動スケジュールを組んでおこう。
オンラインで予約したら、クレジットカードで支払う。これで当日、出発駅に行って、「Ticket collection」(切符受取)と書かれた券売機で受取ることができる(もちろんそれ以前に受け取ることも可能)。注意点が2つ、オンライン購入の際に指定した鉄道駅でしか受け取れないことと、発券には予約番号と支払に使ったクレジットカードが必要なことをお忘れなく。このカードは、発券の本人認証として求められるだけで、課金はされない。
5.旅行当日の注意点
切符は予約した、そして当日出発駅で切符を無事に受け取った…。あとは乗って移動するだけ、なのだが、ここがすんなりいかないのが外国である。
遅延とホーム変更に備える
大前提として、日本の鉄道サービスは世界最高レベルであり、駅員さんも非常に優秀である(これはサービス業全般に言える)。つまり、イギリスで日本水準を期待するとガッカリするはめになる。
たとえば、イギリスの電車はよく遅延する。10分から30分の遅れはざらなので、電車を乗り継いでどこかに行くとき、あまり詰んだスケジュールにしてしまうと、一本遅延したら台無しになってしまう。乗継にはある程度の余裕を持たせよう。そして、発着ホームが予告なしに変わったりするので(予告はあっても僕の英語力では聞き逃す)、定期的に電光板でチェックする必要がある。実際に乗るまでは油断しないこと。
駅員さんを信頼しすぎない
イギリスは基本的に「知らない方が悪い」「気づかない方が悪い」という自己責任の考え方が徹底している。さらに、日本の鉄道会社に比べて、駅員さんの業務内容に関する知識が不十分で、ミスも多いと感じることがよくあった。例えば、自分の場合、駅員の指示に従ったらそれが間違っていて本来の価格より高額の切符を買ってしまい、その間違いに電車の中で気付いたことがあった。それを電車内の車掌や到着駅の駅員に言っても対応はしてもらえない。「それは自分のミスではないから元の駅に戻って当人に言え」の世界である。ミスをされた時点で気づかなかったこっちの負け、なのである。対応策としては、駅員さん2人以上に同じ質問をして、間違いがないかどうか確かめるしかないと思う。
質問やクレームはゆっくり、大声で、気後れせず
旅行中には、質問をする場面や、時にクレームを言う場面が出てくるかもしれない。その際の駅員とのやりとりはなかなか大変だ。特に、こちらがクレームを言っていると気づくと、逆に早口でまくしたてて勢いで黙らせようとする駅員も少なくない。面倒で諦めたくなる気持ちをぐっと抑えて、堂々とした日本人英語で「プリーズ スピーク モア スローリー アンド イン シンプル イングリッシュ ライク ディス!」と何度でも繰り返そう。きちんと説明を受けるまでは引かないぞという断固たる決意を見せるのが大切である。あすこま家の賢妻はこの点でどんなネイティブ相手でも一歩も引かず、堂々と英語を通すので、僕は心底感心している。
むすび:周到に準備して楽しい旅を!
英語で地方を旅するのは大変だ。でも、それだけに自分でお得な切符を見つけて旅をすると、大きな満足感もあると思う。前回のエントリで書いたように、イギリス旅行の醍醐味は地方にあると思うので、ぜひ楽しんで計画を練って欲しい。この文章がその手助けになったら嬉しいです!そして、しつこいけど地方に行くならデヴォン州とコーンウォール州はお勧めですよ!