英語論文の「精読」課題。論文を一ヶ月かけて読みこんで初めてわかったこと。

一昨日、無事に最後の授業レポート課題を提出したので、今日はレポート提出時恒例の振り返り記事(これまでの3科目の振り返り記事は下記エントリ)。今回の課題は「同じテーマを異なる研究方法で分析した2つの論文を自分で選び、5000wordsで論じる」というもの。こちらの大学に来て「1つの論文をここまでちゃんと読んだのは初めて」という経験で、得るものも大きかった。

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2016.02.04

3つ目の課題提出! 語彙力をどう高めるか?

2016.05.04

この授業のタイトルはNature of Educational Enquiry(教育研究の本質)。教育研究の背後にある哲学が主な内容で、面白かったのは、どんな教育研究にも、明示されていなくても、その研究を成り立たせる哲学的前提があるということ。代表的なのが、その研究者が現実をどう捉えているか(ontology:存在論)、知識をどのように捉えているか(epistemology:認識論)という2つの哲学的前提。それが、どんな風に教育研究の方法論(methodology)と絡み合って研究が成立しているのだろうか。そういう観点を軸に、研究のバックボーンになっている哲学的議論を学ぶ…という授業。

ただ、正直に言って僕の英語力では元々の哲学者本人の文献(ハーバマスとか)を読んでも理解できる気がしなくて読み通せなかった…。クラスメートに勧められてCrotty(1998)という人の本を読んで、これならなんとかわかるか、とやや安堵していたら、その後の授業が「彼の議論は現実の教育研究をあまりに単純化しすぎている」というCrotty批判から始まったりして、もうダメ…という感じ(笑)で、 でも、クロティの本はわかりやすいのでおすすめです…。

他に、リーディング課題で指定されていたこの本も読みやすかったかな? 詳しくはないのだけど包括的な議論なので、これは買っても良いと思う。

ともあれ、エクセター大学の先生は、研究の質をチェックする方法として、研究の問い(research question)が存在論(ontology),認識論(epistemology),そして研究方法論(methodology)ときちんと整合性を保てているかをとても重視している印象だ。チュートリアルでも「君の研究のエピステモロジーは何なんだ?」みたいに聞かれる。日本も含めた他の大学の状況は一切わからないのだけど、エクセター大学にいる日本人の先生のお話だと、日本の教育研究の論文ではこうした理論的背景の意識が弱くて、そのせいで英文ジャーナルでリジェクトされてしまうことが多く、もったいない、ということだった。

実は初めて。論文を「精読」する経験

そんな授業のレポート課題は、2つの論文の「精読」だった。基本的に論文を読む時は、「要旨をさっと読んで、必要かどうかを判断する」ことが求められるので、今回の課題のように隅から隅まで精読して議論する、という経験は実は初めてである。課題では、2つの論文の要約を書いた上で、それぞれの論文について

  1. 研究方法論の妥当性
  2. 論文が前提にしている存在論と認識論
  3. 論文の倫理的課題
  4. 研究を取り巻く社会的文脈
  5. 理論と実践の間の双方向的な関係

という5つの観点から両者を比較しながら批評していく。研究方法論の長所や短所を論じるのはもちろん、細かな表現からその論文の著者が前提にしている哲学的立場を推測して研究方法との整合性をチェックしたり、教育実践の文脈の中でその論文の価値を捉え直したり、触れられている倫理的課題や、触れられていない倫理的課題を考察したり、その研究にお金を出している機関のウェブサイトで研究の予算やオリジナル・レポートを調べたり、国の教育政策がどのようにこの研究に影響しているか/していないかを調べたり…。2つの論文を、約一ヶ月かけて読み込んでレポートにした。

英語の大変さはあったけれど、ここまで一つの論文を読み込んだことはなかったので、なかなか楽しい作業だった。そして、いかに日頃論文をいい加減にしか読んでいないかが非常によく分かる経験でもあった。論文にも、ちょっとした表現から読み取れることがあったり、書かれていないことから推測できる裏の事情があったりするのだ。そして、それを知るためには、論文そのものだけでなく、その論文の周囲にある他の論文や、研究分野全体の動向や教育政策の動向なども視野に入れないといけない。一つの論文を丁寧に読むことは、必然的に、色々な論文や情報の関係を読むことにつながっていく

実際問題としてはこんなペースでは論文を読んでいられないのだけど、こういう精読の経験を積み重ねることで、論文の質をチェックする際の重要な要素を短時間で把握できるようになるのかね。なると良いのだけど。

いよいよ残りはdissertationのみ

ともあれ、これで残りはdissertation。といっても、自分のいるコースは博士課程の1年目ということもあり(1年目だけの履修の人は修士号になる)、博士論文のプロポーザルを書くのが修士論文代わりの課題になる。残り約2か月半、頑張っていきましょう!

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