イギリスのEUからの離脱を問う国民投票(EU Referendum)の結果、正直に言ってびっくりした。最近は週末に街に出ると「REMAIN」という青シャツと「LEAVE」という赤シャツを着ていた人たちの呼びかけを見ることが多かったのだけど、スコットランドの国民投票のように「なんだかんだ言ってもどうせ残留じゃないのー?」とちょっと高を括っていたところがあったので…。何も人の役に立つような情報はないけど、自分の印象を忘れないうちに書いておく。
目次
要するに「移民は来るな」ということ?
二週間ほど前、離脱派の人たちが配布していたパンフレットを読んだことがある。EU離脱にともなうメリットとデメリットがたくさん書いてあったけど、要するに「移民は迷惑だから来るな」という主旨だ。なぜ失業率の高い他国の経済状況に我々が影響を受けなくてはいけないのだ、我々はこれ以上移民を受け入れられない。このままだと我々の福祉は限界だ。イギリスは自分たちだけでやっていける…。という感じ。イギリスは緊縮財政・福祉の切り捨てがずっと続いていて、その不満が移民に向かっている印象を受けた。「ターゲット」がはっきりしているので、もともとEU圏外の僕たち日本人はともかく、イタリアやスペインの人たちは、運動期間中はやはりちょっと気にしていた様子にも見えた。
自分には直接見えない「離脱派の人々」
投票から一夜明けて、街は大騒ぎなのかなと思って出てみると、離脱派が勝利の集会をするなんてこともなく、エクセターは意外にいつも通り。一人だけ「Celebrate LEAVE」というバッジをつけた人とすれ違った程度。
街の人がどんな風に思っているのか知りたくても、僕の直接の眼の前には離脱派の人の姿は見えてこない。facebookの知人はみな離脱決定を嘆いているし、今日の午前中に出ていた教会の英会話教室のイギリス人講師は「信じられない!怒りで仕事にならないよ」という感じ。でも、国民の多数は離脱を望んでいたのだから、世論と全く一致しない僕のツイッターのタイムラインと同じで「自分が直接見える世界」がいかに偏っているかというのがわかる。
エクセターは大学の街で、ということは留学生の街でもあるので、「お客さん」でもある外国人にはかなり寛容だ。少なくとも、東京で外国人が受けるだろう扱いよりも、はるかに寛容であることは認めざるをえない。そのエクセターでさえ、総数では残留を支持していた(下の写真の黄色)けど、結果が思っていたよりも僅差(離脱支持45%)だった。そして、エクセター周辺のデヴォン州の地域はみな離脱を支持(青色)。僕がふだん接することのない世界では、やはり移民や外国人に対する表面化しない不満や不信が、色々とあるのかな。留学生に過ぎない自分がふだん接している狭い世界の脆さ、危うさを覗いた気もする。
今後の不透明感
今後どうなる?みたいなことは僕にはわからない。下記のブログが、冷静な観察をしているように思う。離脱交渉にも、長い時間がかかるのだ。
社会科学者として:イギリスの国民投票後の世界はどうなるかを考えてみました
http://kazutosuzuki.blogspot.co.uk/2016/06/blog-post.html
ただ、元々「イングランドとは違う」という意識を持っているスコットランドは、どうやら再度独立の動きを見せる可能性が高そうだし、もしそうなるとアイルランドも…ということを心配している人は、地元でも多くいるようだ。妻が働いているカフェでは、「こんな大事なことを国民投票なんかで決めるべきじゃない。私はいいけど、もし離脱になったら孫の代のヨーロッパはどうなるんだ」と嘆いていたおじいちゃんもいたそうだ。(年齢別では高齢ほど離脱支持派が多いみたいだけど、そういうおじいちゃんもいるのだ)
世界の経済に与える影響、そして右派勢力を勢いづける政治的影響…イギリス以外について考え出したらきりがない。学生も、特にEUから来る学生は、すぐには影響が出ないとはいえ、やはり不透明な先行きについての不安を感じていると思う。今日、早速副学長の名前で、エクセター大学の学生向けに、今後の見込みについての通知がメールされていたほど。
曲がったバナナの味はどうなる?
今日、別の集まりに出ていた妻から聞いたこと。国民投票の結果について、「まあ、いい面を見ましょう」と、ある年配の女性が言っていたそうだ。「少なくとも、これでまた私たちは曲がったバナナを食べられるようになるわ」と。EUの規制は本当に細かいようで、市場で流通する食品の規格にも及んでいる。そういう細々したルールに従うことも、もしかして煩わしいと思われていたのかもしれない。
確かにこれで、イギリスはまた「曲がったバナナ」を食べられるようになるのだろう。でも、その味はどんなものなのか。以前に食べていた「懐かしの、古き良き味」だけではすまないと思うのだけど。