[読書]アーシュラ・K.ル=グイン『ゲド戦記』シリーズ

 ※この小説の内容に言及しています。

ファンタジーの名作ゲド戦記を読み終えた。(ただ、外伝ドラゴンフライは読んでいないので、本編の全5冊だけ)

ゲド戦記 全6冊セット (ソフトカバー版)
アーシュラ・K. ル=グウィン
岩波書店
2006-05-11


 

娘の読書をきっかけに「ナルニア国ものがたり」シリーズを読んでから、せっかくなので読まずに過ごしてきた名作ファンタジーを読んでみようという気になった。 

[読書]「ナルニア国ものがたり」シリーズ

2015.04.18
その、ナルニアに続く第2弾がゲド戦記。ただ、ナルニア国の時と違って一気に読み通すというわけには行かず、中断をはさみながらようやくの通読になった。全体として、淡々と重い雰囲気が漂う作品なのが、読み進める速度に影響したかもしれない。

「ゲド戦記」とはあるが、本当にその名がふさわしいのは第一巻「影との戦い」だけで、このシリーズではゲド以外にも焦点があたっている他の人物がいる。テナー(第二巻「こわれた腕輪」と第四巻「腕輪」)、レバンネン(第三巻「さいはての島へ」)、テハヌー(第五巻「アースシーの風」)といった、ゲドをとりまく人々である。ゲドはむしろ、多島海世界アースシーを旅し、こうした人々に光を当てるための役回りだ。

ゲドとテナーから、しだいにレバンネンやテハヌーに中心世代が移りつつ、物語は展開する。ゲドの青年期から老年期までの長い物語だ。シリーズの前半部分、特に第一巻と第三巻はファンタジーの王道のような展開なのだけど、第三巻で一回物語世界がハッピーエンドを迎え、その後ゲドが魔法の力を失ってからの日々が長い。ゲドが魔法の力を失った無力な男になったと同じく、かつてアチュアンの墓所の大巫女「アルハ」だったテナーも平凡な中年女性となり、現実の生活をどう成り立たせるか苦心する日々を送っている。こうした「物語の後の現実」を描いている点が、このシリーズのユニークな点だと思う。

それぞれの巻や全体を通じたテーマも、自らの影に対峙すること、不死を望むこと、名前を呼ぶこと、世界の均衡をたもつことなど、決して「血湧き肉踊る」ものではない。描写力のある作家であるには違いないけれど、筆致は常に抑えられていて、むしろ淡々と語られる。だから次々と先を読みたくなるわけではなかったのだが、読み終わった後には、アースシーをたしかに生きた人々の物語を読んできたという、ずっしりとした満足感が残った。「ナルニア国ものがたり」のようなヒロイック・ファンタジーとは異なる、また独特の存在感がある作品だった。

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