10年前の旅を終えるための旅。家族でイギリスを再訪しました。

先週、一週間のお休みをもらって、家族でイギリスに行ってきた。目的地はロンドンとエクセター。このブログで書いたエクセター大学大学院の留学も、もう10年前のこと。当時は小学校4年生だった長女は、いまはロンドンの大学に通う大学2年生、小学1年生だった長男は、高校2年生。彼も大学生になったら親元を離れる予定で、それを考えると、家族でエクセターを訪れるのも、もう最後だろうな。そんな予感を抱きながらの出発だった。今日はその旅行の感想エントリ。

写真は、長女がぜひ僕たちに見せたいと言って連れ出してくれた、夜の聖ポール大聖堂。ミュージカルのメアリー・ポピンズで、鳩にやる餌を老婆が2ペンスで売っていた階段のある大聖堂だ。ここからビッグベンまでの道を、家族でお散歩した。

 

10年間の子どもたちの変化

今回の旅行で実感したのは、「子どもたちの成長ってすごい」ということ。10年前の2015年の9月、初めてのイギリス生活で右も左もわからないのは、子どもだけでなく僕自身も同じだった。銀行口座を開くのも、小学校の手続きをするのも、家族寮でお湯が出ずに困ったことも、すべてが壁。親がそんな状況だから、何もわからないまま英語だけの現地校に放り込まれて、子どもたちも本当に大変だったと思う。それでも、二ヶ月くらいたって、長女はダンス、長男はチェスと、それぞれの得意を活かして現地校で自分の居場所をつくるたくましさが、子どもたちにはあった。

あれから10年がたつ。それは、人が変わるのに十分な時間だ。長女は、10年前の海外経験が大きく影響して、高校から全寮制のインターナショナル校に入学し、大学も自力で奨学金を勝ち取ってイギリスの大学に進学した。ことし高校2年生になった長男も、学校の成績もほどほどに良く、映像制作という自分の道を見つけている。チェス以来のボードゲーム好きも続いていて、今は将棋部でがんばっている。

10年ぶりのイギリスは、長女の「帰国」にあわせての家族旅行だったのだけど、すでにロンドンで一年間を暮らしていた長女は、時に「ここは私の庭だから」と先頭で市街を案内してくれた。反移民デモ行進や電車の突然の遅延・キャンセルをはじめ、ロンドンでの一週間は不測の事態も起き続けたけど、それにすべて対応できたのも、長女が率先して英語を駆使して動いてくれたおかげだ。長男も、突然の変更をつげる鉄道や駅でのアナウンスを、僕よりもはるかに正確に聞き取っていたし、会話にも僕ほどは苦労していなかった。もともと、僕の妻も僕よりずっと英語ができる人なので、留学から10年たって、どうやら僕は、我が家で一番英語ができない人になっていたらしい….あれれ、どういうこと??

10年間という時間の流れを実感

今回の旅では、もちろん観光もしたのだけど、それはメインではなかったな(ちなみに、ウィンザー城、グリニッジに行き、レミゼも見た。ロンドンのImperial War MuseumとグリニッジのNational Maritime Museumが素晴らしかった)。

嬉しかったのは、やはり10年前に縁のあった人に再会できたことだ。筑駒からオクスフォード大学に進学していた卒業生さんは、この10年間の間に博士号や永住権までとって、ロンドンのAI企業で楽しく働いていた。10年前、エクセター大学の家族寮で知り合ったムスリムのご一家の長女さんは、うちの長女と同じくイギリスの大学に進学しており、久しぶりの再会となった。10年前に長女がプレゼントしていた時計やぼくがあげたウクレレをまだ持ってくれていたのがうれしかった。また、10年前にお世話になったエクセター大学の恩師の先生にもご挨拶できた。先生は、その後大きな病気をわずらったそうだ。最近の学生さんの気質の変化にとまどうご自分を「年をとったというんですかねえ」と笑っていらした。

10年は、人が変わるのに十分な時間だ。でも、気づいたらあっという間にすぎる時間でもある。そういえば10年前の自分は、まだ筑駒にいて、今よりもずっと研究志向が強かった。それから教える年齢も学力層もちがう風越学園にうつって、いろいろなことに戸惑いもあったけれど、本当にいい経験をさせてもらってる。10年ぶりにお会いした恩師に「楽しく働かせてもらってます」と一点の曇りもなく報告できたのは、自分でも幸福なことだと思う。

10年前の旅を終えるための旅

だけど、子どもたちのめざましい成長を目の当たりにすると、どうしても「いったい自分は…」という思いもわいてくる。いや、確かに楽しくやっているし、何より風越学園で前よりもライティング・ワークショップにふりきって実践できているのは本当に恵まれている。だから不満なんてないんだけど、10年前に、エクセターに来た時に思い描いていたキャリアは、ここの大学院で修士号をとった経験を活かして、実践研究をばりばりやるぞ!というものだったので、その時の未来に立ってないことは確実だなあ。もしも、そっちの道をとっていたらどうなっていたんだろう…ということも、留学時も低かったのに衰える一方の英語力とともに、ちょっと考えてしまった。

「10年間、私は何をしてきたのかなあ」。同じようなことを考えていたのか、ロンドンでのバスでの移動中、隣の席で妻がふと漏らしていた。そのことば自体が頼りなく騒音にかき消されて、返答もできないまま終わった。あれから10年、幼かった子どもたちがそれぞれひとりだちしはじめ、家族のフェーズも確実に変わる。4人から夫婦2人になる。今回はそれを実感する旅だった。10年前の旅を終えるための旅だったな、とふりかえって思う。いい旅だった。こうやって子どもは親から離れていくんだなと感じられる、本当にいい旅だった。

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