物語の読み方を教える時に、授業では「本文に根拠があるかないか」が強調されることが多い。参考書によっては「答えはすべて本文にある」みたいな言い方をするものもある。しかし、これはミスリードだ。実は本文の根拠だけでは物語の解釈はできない。僕たちは実際には本文の外にあるさまざまな知識を活用して、本文の根拠とそれらの知識を関連づけることで、本文を解釈している。今日は改めて、そんな基礎的な話を書いてみる。
前提としての、共同体で共有された知識
まず大きな前提として、物語を読むには、その共同体の中で共有されている、「人間はこういう時にこういう感情を持つ/こういう振る舞いをするものだ」(例:悲しいと涙を流す)という、人間のふるまいに関する常識的知識がいる。この知識がないと「涙を流している人の気持ち」が「悲しい」とは解釈できない。なお、「その共同体で」と書いたのは、共同体によって文化的習慣が違えば、特定の感情をあらわす行動様式が異なる可能性があるからだ。
物語特有の「お約束」たち
次に、物語には物語特有の暗黙の「お約束」(コード)があり、その知識も必要になる。これが意外にけっこう多い。
例えば、物語の中では、時に動物がしゃべったり、変身したり、異世界に転生したり、死者が蘇ったりという、「現実社会では起きないこと」が物語では起きうる。これは物語についての大事な知識である。
また、物語の中では、情景が人間の心理や運命などの象徴として用いられることがある。「暗雲が立ち込めている」情景が、その後の主人公の未来を暗示したりする。天気と人間の営みが連動するなんて、現実にはありえないのだが、物語ではそういうことが起きうる。これも知識である。
加えて、物語には「語り手」というものが存在する。地の文は、登場人物ではなく「語り手」が語っているのだ。「水中ブルドーザーのようないせえび」という描写は、語り手による比喩=評価なのであり、別にスイミーがブルドーザーを見たことがあるわけではない。そして、語り手はスイミーの内心(こわかった、さびしかった)に入りこむことだってできる。
さらに通常、物語の語り手(というより書き手)は、作中の出来事を相互に関連づけて脈絡をつくるので、「物語の中に登場する人物や会話には何かしら意味がある」というお約束もある。会話の中で、「….」と沈黙が描写されれば、そこにも書き手は何か意味をこめたと仮定して、読み手はそこに意味を読む。この時、前後の会話と全く関係のない妄想をしていた、なんてことは、現実にはあっても、物語の世界ではそんな無意味な描写はない。わざわざ書かれていることには意味がある。「意味に満ちている」のも、物語のお約束だ。
逆に、物語の中では要素が関連しあって脈絡をつくるので、物語に書かれていない要素をいきなり根拠にもってきて解釈をつくることは期待されない。「ごんぎつねのごんは実はキツネ型ロボットだった!だから人間の言葉がわかるのだ!なんてことは言えない。これも物語読解に関する広い意味での「知識」だ。
ぱっと思いついただけでも、これだけ多くの「本文の外にある知識」に支えられて、僕たちは物語を解釈しているのである。
教えるべきかな?こういう知識
通常、これらの知識を、少なくとも小学生段階では僕たちは明示的には教わらない。僕も風越学園で子供たちに教えようとは思わなかった。それは、シンプルに理屈で説明しても多くの子どもには理解できないし、なによりも、物語を読み慣れることによってそういう知識を自然と体得し、読みの共同体の仲間入りをすることが期待されているからである。ごく一部の、こういう設定がピンとこない子には、個別に「物語ってこうなっているんだよ」と話すことはあるけれど、わざわざ全体で扱うことはなかった。
ただ、いま僕が教えている大学生(の小学校教員希望者)には、一度はこういう「知識」を明示的に教えてもいいのではないかと思い始めた。読書量が少ない学生さんの場合、こういう知識を自然と体得しないままで、物語の解釈に納得できずに成長してしまう例もあるのかもしれないから。そして、こういう知識を持つことで、将来教室で物語を教えるときに、役にたつこともあるだろうから。
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