[読書] 教師必読、レポート課題の設計図。成瀬尚志(編)「学生を思考にいざなうレポート課題」

もしあなたが授業でレポート課題を出す教師であるなら、成瀬尚志(編)「学生を思考にいざなうレポート課題」は必読だ。世の中に、学生向け「レポートの書き方本」は数多いけれど、教師向け「レポート課題の出し方本」はほとんどない。そして、この本はそういう貴重な一冊である。

目次

レポート課題の「設計図」

大学のみならず、中高でもレポートを課す機会は多い。そして授業の課題でレポートを出すたびに「コピペが多くて…」と嘆く教師は少なくない。もちろん授業では剽窃がなぜ問題なのかを説明するのだけど、それでもネットから丸写しする生徒は一定数出てくる。

このとき、たいていの教師は「生徒のダメさ」を嘆くのだけど、問題なのは実は学生ではなくて、その教師のレポート課題の出し方なのかもしれない。例えば、レポートの論題が「○○について論じなさい」などとあまりにも漠然としているため、何をどう答えていいかわからず、ひとまずその○○について検索した結果を書いたのかもしれない。このとき、レポート課題の出し方を少し工夫すれば、コピペをせず、自分なりに創意工夫をして書いてくる学生の数は、おそらく増えていくだろう。

この本は、「レポート課題をきちんと設計すれば、学生はそれに応えてくれますよ」というメッセージを僕たち教師に伝え、その「設計図」を手渡してくれる。主に、「論題の設計」「授業のデザイン」「レポートの評価」という観点から書かれている。

レポート課題の論題設計のコツとは?

これらの観点のうち、僕にとって一番有益だったのは、レポートの論題の設計についての章(第3章)だ。ここでは、主に次のことが主張される。

  1. 「論証型レポート」だけでなく「論述型レポート」を含めて設計しよう
  2. 生徒に「形式面の創意工夫」と「内容面の創意工夫」をどの程度のバランスで求めるかを考えよう
  3. 自分がレポートで「生徒に何を求めたいのか」を自覚しよう

以下、それぞれについて見ていこう。

「論述型レポート」の役割を見直す

筆者はレポートを大きく「論証型レポート」と「論述型レポート」に分けている。前者は、生徒が自分で問いを設定したり、あるいは教師が(例えば是非型の)論題を与えてどちらかの立場を選んで論証させたりするタイプのレポートで、一般にレポートというと(特に大学では)このような形式が多い。

しかし、筆者は「この論証型レポートは、ライティング・スキルの低い学生にとって難易度が高く、論証の型だけ教わったとしても、実際に意味のある論証ができるためには、別の指導が必要である」ことを指摘する。

そこで筆者が提案するのが、生徒が自分で立論・論証することばかり求めるのではなく、授業内容の理解を論述形式で問う「論述型レポート」を活用することだ。

筆者によると、論述型レポートにも次のようなバリエーションがある。

  • 与えられた素材の再構成を求めるもの
  • 与えられた素材の分解や抽出を求めるもの
  • 与えられた素材からの推論を求めるもの
  • 与えられた素材と他との関係を考えることを求めるもの
  • 与えられた素材の解釈や評価を求めるもの

論証型レポートだけでなく、これだけの種類がある論述型レポートも含めて、どのタイプのレポートを、なぜ出題するのかを考えるのが大事だということだろう。

「形式面の創意工夫」と「内容面の創意工夫」のバランス

論述型レポートでは、書く素材自体は授業ですでに与えているので、何も指定をしないとそれをそのまま書き写すコピペレポートになりやすい。そのため「形式面の創意工夫」を求めることで、コピペができないようにしていく。例えば、レポートの表現形式を対話篇にするように指定したり、抜き出す素材の数を指定したり、具体例を出すことを求めたりすることで、「丸写しだけで書けてしまうレポート」の出現を防ぐのである。つまり、「論述型レポート」では、論題を工夫することで、コピペレポートは確実に減らすことができる

一方、レポートの性格が「論述型」から「論証型」に近づいていけばいくほど、形式面ではなく「内容面の創意工夫」を求めることになる。特に生徒が自分で問いを設定して論じるような探究型のレポートになると、論題の指定はできない。そこで、「論証型レポート」では、論題以外の方法で(授業の工夫や一対一の指導の場面で)生徒に内容面での創意工夫を求めていくことになる。

いずれにせよ、レポートのタイプに応じて「形式面の創意工夫」と「内容面の創意工夫」のバランスを考えながら生徒に求めていくことで、コピペレポートは確実に減らすことができる。

「そのレポートで生徒に何を求めたいのか」を問う

そして、上記2つのポイントを支えているのが、「そのレポートで自分は生徒に何を求めたいのか」という教師の意識だ。この本ではアンダーソンらの改訂版タキソノミーを用いながら、どのタイプのレポートが、どの次元の知識(概念的知識・手続き的知識・メタ認知的知識)やどの次元の認知過程(理解・応用・分析・評価・創造)を問うているのかを表にして整理している(p72)。

こうした表は、教師が「自分がレポートを課すことで何をやろうとしているのか」を自覚するために有用なツールになるだろう。僕の場合は、中1に対してもいきなり解釈・評価型や探究型のレポートを求めることが多くて、いくら優秀な生徒たちとはいえ、やっぱり偏っているのかなあとやや反省した。

3つの評価観とルーブリック

以上は論題設定についての話題だが、評価についても「自分はもっと勉強しないと」と思うところが多かった。僕は(アトウェルの影響もあって)ルーブリックを基本的に使わない人なのだけど、学習の評価(assessment of learning)、学習のための評価(assessment for learning)、学習としての評価( assessment as learning)という3つの評価観(p154)を踏まえると、学習のための評価や学習としての評価のツールとしてルーブリックを使うことは、意味のあることのように思った(一方で、学習の評価としてのルーブリックは、ライティングの評価にはやはり馴染まないように思っている)。ルーブリックについては、ちゃんと勉強しないといけないなあと思う。

レポート課題を出す教師にはオススメ

このエントリでは自分の興味に引っかかったところを中心的にまとめたけれど、もしあなたがレポート課題を出している教師であれば、校種(中・高・大)を問わず、得られるものの多い本だと思う。一度で読み終えず、ときおり自分のレポートの傾向をチェックするためのツールとして使うのが良さそうだ。同業者の方におすすめです。

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