まずさに定評のあるイギリス料理を経験したらやっぱりまずかった話

いよいよ8月。帰国までわずかとなった。これからしばらくは個人的思い出の記録のため、留学生活やイギリスの話題あれこれも忘れずに書いておきたい。今回はイギリスにまつわる鉄板ネタ、「まずい食事」についてである。あまりにも定評があるので「またまた〜、盛ってるんでしょう?」と思っていたが、実際にまずかったですよ、というお話。

写真は個人的に衝撃の味だったミントソース
もちろん料理の味覚には個人差があるし、イギリス料理大好きな方とか自称イギリスの達人の方で「たかが一年の経験で何を語るか!」と思われる方もいるだろう。さらに、あすこま一家には縁のない話だが、イギリスでもおそらくお金を出せば美味しい料理が食べられるのだとは思う。僕が書くのはあくまで超庶民レベルの「根拠は自分」の話である。

目次

悲しかった渡英直後の食生活

僕たちは去年渡英してすぐロンドンに5日間くらい滞在したのだが、今思うと食生活的にも精神的にも一番貧しい日々を送ったのはこの5日間なのではと思う。それもこれもロンドンの食事が美味しくなくて物価が高いせいで、ぱさっぱさの美味しくないサンドイッチに約500円、油まみれのフィッシュアンドチップスに約1000円支払うのがあまりにバカバカしくて…。妻も「サンドイッチをまずく作れるなんて知らなかった、誰が作っても同じかと…」とショックを受けていたほどである。

そうなるとやはり頼みはアジア系。安くてまあまあ美味しいチャイナタウンが一日の救い、みたいな日々であった(ちなみにチャイナタウンのお店では、旺記(ワンケイ)が安くて美味しくてボリュームたっぷりで好きでした)。

「イギリス料理はまずくない。イギリス人が料理しなければ」

あれから約一年。僕の賢妻いわく「イギリス料理はまずくないのよ。イギリス人が料理しなければ」。これはその通りだなあと思う。イギリスで生活してわかったのは、日本と比べても食材は高くないし、味も悪くない。やたら巨大なきゅうりやナスにはビビるけど、味は日本と変わらない。肉も豚肉や牛肉は日本より安い(鳥と魚は高め)。そして、乳製品(牛乳、チーズ、クリームなど)は、明らかに日本よりも安くてかつ美味しい。問題なのは食材よりも、調味料、そして料理する人なのだ。

マーマイトとミントソースの衝撃

まずは調味料。悪名高いマーマイトは悪名の通りまずい。ひと舐めして、これを美味しいと思う人がいるのかと世界の多様性に驚きを得られるレベルの味で、この後は決して食べたいとは思えなかった。

同様に印象深いのはミントソース。さるイギリス人が「これを焼いたラム肉につけると絶対に美味しいから食べて欲しい。僕はこれが大好きで、これを食べない人にイギリス料理を語って欲しくない!」とまで言うので、おっしゃる通りにして食べたら、これが衝撃的なまずさでびっくりした…。いやあ、味覚っていうのはわかりあえないものなんですねえ。

「せっかく買ったんだからどうにしかして美味しく食べよう」派の妻と、「買って苦痛を味わってなぜこの先なおも時間を費やさねばならぬのだ」派の僕との間激論が戦わされ、結局のところその後ミントソースは食卓に出ていない。

細かい味付けや工夫は好きじゃない?

味覚の違いを割り引くにしても、もしかしてこっちの人は「食材を美味しく味付けする」ことに伝統的に興味がないのだろうか?そうかもしれない、とさえ思う。イギリスの19世紀の有名な料理本にミセス・ビートン『ビートン夫人の家政読本(ビートン夫人の料理書)』がある。現在でもレシピのベースになっているという話も聞くこの本を図書館で借りて読むと、

お鍋に水を入れて魚を40分間煮込みましょう。その魚にソースをかけて食べましょう。(大意)

というレシピがあるのだ。「それってダシが出て美味しくなくなった魚をわざわざ食べてるんじゃ…」「ダシの出たスープは捨ててるんじゃ…」という感想しか出てこない。この有名な料理本、他にもざっと見る限り、アクをとるとか、下ごしらえをするとか、そういう細かいことは出てこないようだ。

まあ、もちろん19世紀の話を現在と直接関連付けるのは暴論だし、個人差はある。しかしそれでも、イギリスの人は基本的に「細かいことを気にしない」のではないかと思う。味付けだけでなく、台所に張り付いて分単位や秒単位で仕事をするのはあまり好きではないのだ。だから、単にフライパンで焼けばいいか、大鍋でグツグツ茹でておけばいいか、オーブンに放りこんでおけばいい料理が好きなんじゃないかな。

有名なフィッシュ・アンド・チップスでさえ、単に魚とポテトを揚げて塩とビネガーを振るだけ。「伝統の味を守る」といえば聞こえはいいけど、何も工夫してないんじゃなかろうか…。あれは単調で脂っこいので、日本だったら「春限定の桜フレーバー」とか多種類展開していておかしくない商品である。

やっぱり家庭科は必要!

何も工夫しない事情はお弁当でも一緒だ。子供たちの学校はお弁当持参なのだが、それなりに彩りや栄養バランスを考えて作る我が家のお弁当は、結果的に断然豪華なお弁当である。というのも他の子のお弁当が貧しすぎるのだ。りんごにパン一切れ、みたいなところが多く、手間を省くことが最優先で、栄養バランスとかを考えている様子が一切ない。これは不思議だなあと思う。学校教育で家庭科がないことも一因なのかもしれない。日本には家庭科があって素晴らしい!

読者の方に教えていただいたのだけど、さすがにこのままではまずいということで、近年、イギリスのナショナルカリキュラムではDesign and technologyという授業で料理のことをやることになったらしい。下記のナショナル・カリキュラムにもそう書いてある。

Design and technology programmes of study
https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/239041/PRIMARY_national_curriculum_-_Design_and_technology.pdf

ただ、Key Stage2のうちの子たちの通知表を見ると、D&Tという科目名はあるものの、料理をやったことなんてなかったはず…と思って再度確認すると、姉(10歳, Year5)のクラスで、ピザに好きな具を選んで載せて食べるというイベントがあったそうなので、これかもしれない。しかし家庭科の授業でピザ…さすが肥満大国イギリスである。

イギリス人の間でも定番ネタ?

そんなイギリス人の間でも自分たちの料理のまずさは「定番ネタ」らしく、イギリス人にも「イギリスには美味しい料理がない? 失礼な!インド料理や中華料理があるよ!」「イタリア人に生まれたかった。そうしたらイタリア料理が毎日食べられるのに」ということを笑いながら言われる。まずいイギリス料理は、彼らのアイデンティティの一部なのだ。そう思うと、美味しくても美味しくなくても話題になるのだから、イギリス料理も大したものである。これほど人々が話題にしたがる国籍料理も、なかなかないのではないか。

お勧めはフル・イングリッシュ・ブレックファスト

そんなイギリス料理で僕が安心して食べられるのは、フル・イングリッシュ・ブレックファスト。あれは、美味しい食材を焼くだけでいいので、いかなイギリス人でも失敗しようがない(と書いたら失礼か)。そしてマッシュルームが大きくておいしい。別に朝食限定というわけではなく、街には、All Day Breakfastと言って一日中ブレックファストが食べられる店もある。

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というわけで、イギリス料理を、しかも安心して食べたいという方にはフル・イングリッシュ・ブレックファストがおすすめ。せっかくだからイギリスならではの味覚に挑戦したいチャレンジャーは、ぜひスーパーでマーマイトやミントソースを購入してくださいな。

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