児童書作家・岡田淳の『図工準備室の窓から 窓をあければ子どもたちがいた』を読みました。『2分間の冒険』『放課後の時間割』『びりっかすの神様』などの名作で知られる岡田淳は、なんと38年間も小学校図工専科の教員を務めていたそう。この本には、そんな岡田の図工専科教員としての日々が、生徒や同僚との関わりを中心に描かれています。
気軽なエッセイのつもりでページを開いたのだけど、結果的に同業者として学ぶことがとても多くて、この人は図工の先生としても超一流だったからこそあれだけの児童文学を書けたのかという気になるくらい。正直驚きました。というわけで、今日はこの本の紹介です。
若い頃の、図工展をめぐるエピソード
感銘を受けたエピソードもいくつかあるけれど、ここでは2つだけ。最初は、岡田さんが教員2年目に、勤務校の図工展の企画の担当になったときのこと。体育科教員が運動会担当になるのと同じく、この図工展は図工教員にとってのいわば見せ場であり、プレッシャーもかかるところ。まだ初任に近い先生なら力んで立派な図工展をやろうとするのが当然のところ、彼は、その真逆をいくんですよね。他人と上手い下手を比べるのではなく、自分の中での変化を見る狙いで、春と秋に同じ「未来」というテーマで絵を描き、それを並べて展示したのだそう。
僕はこのビジョンにまず感心したのだけど、もっと感心したのはその後日談。2年後、やはり図工展の担当となったときに、会場の講堂に足を踏み入れた子供の「わあ、これがいつもの講堂か!」かという言葉から、岡田は「わあ!」が必要だったんだと気づきます。図工展は日常と違う、もう一つの世界でなければ面白くないんだと気づいて、彼は図工展への考えを変えていく。もともとの自分の信念を、子供の反応で柔軟に変えていけるところが、ほんとすごいなと思いました。
「不思議に満ちた雑然」の準備室
もう一つは、彼の拠点である図工準備室について。図工教員としての経験を重ねるごとに、彼は図工準備室が「良い感じの雑然」であるように意識をしていきます。そしてそれを「不思議に満ちた雑然」と表現して、その場所が子供にとって魅力的になるように仕掛けていく。例えばいろいろな制作物を、「もしかすると生命が宿っているのでは」と子どもに思わせるように。また、見えている作品の奥にもっとずっとたくさんの作品が続いているのではないかと思わせるように。そんなふうに子供がワクワクするような部屋にした上で、なんと、子供たちを準備室に自由に入れないようにしてしまう。そうやって図工の拠点である図工準備室を、子供たちにとってたまらなく魅力的で、いつか入ってみたい部屋にしているところに、本当に驚きました。きっと、図工にワクワクする気持ちが、彼の図工教室では育ったんだろうなあ。
シンプルな教育の目標3点もいいね
そんな岡田の図工教師としての目標にも学ぶべきところが多いです。彼は「小学校は他の人との関係の中で、文化と系統的に出会うところ」と決めて(この定義すごくないですか?)、図工の時間の目標を次の3点に絞ったそう。
- 絵を描いたりものを作ったりすることを好きになること。
- あの人やるなと思えること。
- 自分もやるぞと思えること。
このシンプルな3つの教育目標、図工だけでなく、小学校の作文教育の目標として考えてもそのまま通用しそう。そのくらい大事なことを押さえてて、彼の図工教師としての姿勢からも僕らが学ぶべき事はとても多い。
ついうっかり「勉強になるところ」ばかり書いてしまったけど、このエッセイは、岡田淳作品に登場するちょっとした舞台や登場人物の裏話を聞く楽しみもある。何より、岡田の同僚や子どもに対するまなざしが温かくって、読んでいて心地よい。ぜひ多くの先生方に読んでもらいたい本でした。
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