[お知らせ]先日の投稿に無藤隆先生からコメントをもらいました

今日は手短にお知らせです。先日の投稿「[資料]「マルチプル・インテリジェンス」「マインドセット」「ラーニング・スタイル」「Grit」…効果が誇張されがちな研究にどう向き合う?」に、保育・幼児教育の専門家でもある教育学者の無藤隆先生(白梅学園大学子ども学部名誉教授)よりコメントをいただきました。専門家の見解として参考になるものなので、許可を得て、元のエントリとこちらに追記します。

[資料]「マルチプル・インテリジェンス」「マインドセット」「ラーニング・スタイル」「Grit」...効果が誇張されがちな研究にどう向き合う?

2021.07.03

非認知スキルに関する無藤先生のコメント

非認知スキルというのは極めて雑多なので、細かくいえば、わりと教育介入可能なものも多少はあると言ってよいと思います。(京都大学の森口さんの近著と8月に北大路から出る「非認知能力」についての概観本が参考になります。)
それとは別に、多知能理論等々はかなりだめなものと、概念的なイメージとしていけそうなものと、実証的に耐えるものと、それぞれいろいろとあります。

例えば、多知能理論をまともに受け止めた教育心理学者がいたのかどうか。実証しようにもそういう精緻な理論があるわけではありません。ガードナーの議論はもっぱら、伝記と才能が突出していることの事例(と多少の才能の脳における局部性)に基づいているのです。実証化した質問紙もありますが、信頼性・妥当性が乏しい感じでした。日本の追試もうまくいっていないと思います。

ラーニング・スタイルも同様です。研究と応用はとっくに方略(ストラテジー。これは無数と言って良いほどに色々あるのを使い分ける)に移っています。

グリットはそもそもダックワースの個人のものだし、その本がベストセラーになっただけで、追試などをあまり読んだことがないのですが、さてどうなのか。明らかにもっとたくさんの研究での確認と拡張が必要なところです。

マインドセットはかなり考える必要があります。小規模の実験室的研究がドゥエックの研究室でたくさんやっていて、その追試発展も世界中でかなりあり、結構うまくいっているからです。ところが学校教育場面で適用した大規模研究ではパッとしないのです。少なからぬ教育心理学者は最初は驚いたと思います(私も期待していたのでがっかりした)。でも、たぶん、マインドセットは現実の中で多少機能したとしても他の変数と混じり合い、訓練しても続かないのかもしれません。

エキスパートの1万時間はサイモンとエリクソンなどの本で有名になりましたが、元はチェスの話しです。そもそも熟達の程度はちゃんと定義されていませんし。才能の程度もあるでしょう。分野によって異なるのは当初から皆そう思っていたと思います(研究者は)。ビジネス本になって、一人歩きしたのでしょうね。でも、見当つけのいわば第一次近似としては割とよいメドだと思います。(英語学習だと、毎日3時間学ぶと、10年間、ちょうど中1から大学4年まで。もっともらしいです。)

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