先週、横浜市立小学校に勤務するイマシュン(今村俊輔)さんの小学6年生「作家の時間」を見学してきました。この日のお目当ては、カンファランスにおける生成AIの活用。その授業ではなんと、生徒が使えるタブレットにChatGPTをベースとした生成AIのアプリが入っていて、子どもがそれに相談しながら書くことができるそうです。規約上はChatGPTは小学生では使えないはずですが、アプリになっているということは、何かしらの方法でクリアしているんでしょうね。中高ではともかく、小学校では事例の少ない取り組みを、興味津々で訪問しました。
楽しそうな教室の雰囲気
教室に入ると、壁にはお化け屋敷や演劇など、これまでのクラスの歩みが張り出され(中には「出版大会」もありました)、作家の時間の作品も額入りで飾られています。後方にはブッククラブ用の定番の本がずらり。担任のイマシュンさんが、クラスの子たちと楽しい雰囲気をつくり、また「作家の時間」「読書家の時間」に熱心に取り組んできたことがわかります(こうした場や関係づくりが、AIを有効に使う上でも大きい気がします)。
授業が始まりました。ミニレッスンの資料はロイロノートで経由で提示され、子供たちの作品もロイロでお互いに見られるようになっています(見られない設定にすることもできます)。この日は描写について扱っていたのですが、子供たちの書く例文がとても素敵で、つい見入ってしまいました。
アイディアに、校正に…自然な使われ方
ミニレッスンが終わり、書く時間へ。アイランド型に机の配置を変更して、ほぼ全員がタブレットを使って書いています。後で聞くと、手書きより2倍の速度でタイプできるようになったら、作家の時間の作品をタブレット書いて良いことになっているのだそう。しばらくすると、生成AIを使う子も出てきます。ChatGPTがベースで、主な使い方は、創作のアイディア支援、そして校正の支援。ちなみに、生成AIが執筆を代行しないよう、プロンプト(指示文)を事前に組んでいるのだそうです。
実際に見ると、ある子は誤字や脱字の確認に使い、他の子は自分の書く作品で中学生同士が喧嘩をする場面があるとかで、中学生がどんな喧嘩をするのかを生成AIに質問していました。もしかしてAIだけとやりとりしちゃう子も結構いるのかなと事前には思ったのですが、実際には25人中、生成AIを使っているのは7人ほど。他は、グループのメンバーと互いにやりとりをしながら書いています。なんというか、ノイズの少ないグーグル検索のようなツールとして、先生とのカンファランスや友達同士の関わりに次ぐ第三の選択肢として、生成AIが自然にそこに馴染んでいる感じがしました。後でイマシュンさんに聞いたところ、やはり導入したての頃は皆が夢中になって生成AIを使っていたのが、今ではだんだんと落ち着いてきたそう。
コミュニケーションの足場がけとしての生成AI
授業後に聞いたお話で、忘れ難いエピソードもありました。コミュニケーションが少し難しいタイプのお子さんが、生成AIとやりとりをする中で、自分の書きたいものを確認し、表現しやすくなってきたのだそうです。確かに、人間と違って、生成AIはいらつくことも、あわただしくふるまうこともなく、ずっと相手をしてくれます。また難しくても「わかりません」ボタンを押したり、もっと低い学年向けの説明を選択したりすれば、易しく言い換えてくれることもできます。会話がゆっくりで、関わるのに時間がかかってしまう子にとっては、生成AIが友達とのコミュニケーションの良い足場掛けになるのかもしれません。
無視できないゲームチェンジャー
生成AIアプリは、今はまだ高価なサービスで、一部の裕福な私立高中心に導入が進んでいるにとどまります。ですが、今後普及が進むにつれて、小学校の授業にも生成AIが入ってくる可能性は高いでしょう。「そうなったら、ゲームチェンジャーになる感覚はある」とイマシュンさんも話していました。とりわけ、作家の時間のような個別指導が中心の授業では、30人学級ではどうしても手がまわりません。児童が生成AI相手に自分で問題を解決できるメリットは大きい。
僕は以前に下記エントリに書いたような慎重論も持っているのですが、今回の見学で、「生成AIは子供にとっての選択肢の一つであり、思ったほど子供への影響はないのかも」と、良い意味で安心もしました。まあ、積極的に導入するのであれ、慎重な態度を崩さないのであれ、生成AIはやはり無視できない存在。その思いを新たにした見学でした。
追記)同行者、トミーの詳しいレポートと考察
一緒にこちらの教室を訪問したトミー(冨田明広さん)が、詳細なレポートと考察をアップしてくれました。ぜひご一読を。