[読書]「発信する学校司書」の奮闘記。木下通子「読みたい心に火をつけろ!」

この本は、埼玉県立高校の学校司書として活躍されている木下通子さんによる、学校司書の仕事の紹介本だ。学校司書とはどういう仕事なのかというところから、学校との連携、ビブリオバトルや高校図書館フェスティバルなどのイベントの開催、地域の近隣校や司書同士の連携などにいたるまで、これまでの木下さんの実践をまとめて紹介しており、学校司書の活躍ぶりがよくわかる一冊である。

目次

活発な埼玉県の県立高校図書館

もう数年前のことだが、色々な学校の図書館見学をしていく中で、埼玉県立高校の図書館が強力なネットワークを持っているらしいということを知った。県立高校に常勤の学校司書が配置され、近隣の学校図書館同士で相互貸借や情報のやり取りも緊密になされている。2011年から13年には「埼玉県高校図書館フェスティバル」も開催され、その後も「埼玉県の高校図書館司書が選ぶイチオシ本」が継続して公開されている。これらの活動を知った時は「なぜ埼玉の学校司書さんはこんな活発なの?」とびっくりしたものだ。

埼玉県高校図書館フェスティバル

http://shelf2011.net/

内情は全く知らないものの、こういうイベントを進めるプロセスには色々な困難や衝突もあっただろう。それでも、埼玉県の高校学校司書の皆さんが協力して「学校司書」の果たす役割を発信していることには、素直にすごいなあと思う。

司書の仕事を考えるところから、様々な活動へ

この本の著者の木下さんは、このフェスティバルの実行委員長を務めていた方だ。その後はビブリオバトル普及委員ともなり、各地で研修などもされている。埼玉県立高校の学校司書の方のなかでも、とりわけ司書の役割を外部に発信する活動に熱心に取り組まれてきた方なのではないかと想う。そんなキャリアの方だけに、ビブリオバトルとの出会いから実施・普及活動にいたるまでの経緯や、埼玉県の学校図書館司書の歴史をふまえて学校図書館司書の役割を考えた様々な活動について書かれているのが面白い。

特に興味深かったのが、2011年から開催された「埼玉県高校図書館フェスティバル」が、「司書の採用試験を再開したい!」という思いから生まれたということ。司書の存在を、できるだけネガティブにならない形でアピールしようとしてできたのがこのフェスティバルだったというのだ。

こうした取り組みの影響もあって、2012年度から12年ぶりに学校図書の新規採用試験が行われるようになったのだからすごい。フェスティバルは当初の目的を達して3年で終わったけれど、そこからはじまっている「イチオシ本」企画は、僕自身が本を読む参考にさせていただいていることもあって、今後も長く続いてほしい企画である。

こんな人に読んで欲しい

この本には、木下さんをはじめとする埼玉県の学校司書の皆さんの奮闘ぶりが詰まっている。サブタイトルに「学校図書館大活用術」とはあるけれど、高校生に図書館の活用の仕方を教える本というよりは、学校司書という仕事に興味がある人向けに、その活動内容を紹介する本という色合いが濃いかもしれない。たぶん一番のターゲットは、司書になりたての人や、司書課程・司書教諭課程を受講する学生さんたちなんじゃないかな。僕も来年度の司書教諭課程の授業では、ぜひ学生さんに紹介したい。

また、保護者の方にも読んでほしいな。この本は、「常勤司書を配置するとこんなことができる」という可能性を示した一冊でもあるからだ。自治体の予算の絡みもあるのでなかなか一筋縄ではいかないが、「常勤の学校司書を!」という声が、こうした本などを通じて広まっていったらと思う。それだけの発信力のある本である。

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