ライティング/リーディング・ワークショップの教師の「専門性」って何だ?

ここ1年、ライティング・ワークショップやリーディング・ワークショップをやりながらナンシー・アトウェルのIn the Middleを読み返すことが多くて、アトウェルの考えをなぞりながら自分の授業を振り返ると、ライティング/リーディング・ワークショップの教師の「専門性」というか、目指すべき姿が、だんだんわかってきたように思う(この方法を知ってからもう9年もたったのに、ようやくその段階!)。それであらためて思ったのは、「この授業やっぱり大変だな…」ということ(笑)。今日はそのことのメモ。

とにかく生徒を「鍛えている」アトウェル

In the Middleを読んでいて痛感するのは、とにかくアトウェルは生徒を徹底して「教えている」「鍛えている」ということだ。ミニレッスンやカンファランスを通じて自分の知識や技術をふんだんに生徒に伝えているし、生徒の文章を出版する直前には、すべての文についてびっしりと朱を入れる(実際に教えるのはその中の一つだけ)。学期末や年度末の個別評価も、個々の生徒の書き手/読み手の成長と課題をびっしりと書き、次の目標を提示している。

[ITM]読み手を/書き手を評価する(2) 教師からの評価

2015.03.09

で、In the Middleに引用されている生徒作品も、そりゃあいいものを選んでいるのだろうとは思うが、とてもいい。10代前半の生徒が書いているとは思えない内容と表現力がある。読んでいる本も本格的。

これを読んじゃうと、自分のライティング・ワークショップって、全然生徒を鍛えてない、教えてないなあ…という気にとらわれる。カンファランスのレベルが違うのだ。

アトウェルの本に見る、理想的な教師の役割?

In the Middleを読むと、ライティング/リーディング・ワークショップの教師にはこんなことが求められるのだと思う。

  • 自分も現在進行形で読んでいる/書いている(そして、その姿を生徒に見せている)
  • 読み書きについての知識や、学ぶべきスキルの体系が頭の中に入っている
  • 目の前の生徒についての知識がある。いま、読み手や書き手としてどんな状態か。
  • 読み書きについての知識と、目の前の生徒の状態についての知識を照らし合わせて、「いつ、何を教えるべきか」を判断し、カンファランスを通じて教える。

アトウェルのライティング/リーディング・ワークショップの真髄は、カンファランスの凄み。

2017.12.30
これを見るだけでも、ライティング/リーディング・ワークショップの教師に膨大な仕事が求められることがわかる。教師は、自分の頭の中に読み書きのスキルや本についての知識があり、それを目の前の生徒の状態にあわせてオーダーメイドして個別のカリキュラムを作っている。そのために、実際に自分も書き続け、読み続け、膨大な知識をいつどのタイミングで誰に手渡すかを、判断しつづけないといけない。こうなってくると、教科書の内容を、ただ順番通りに一斉授業でやるほうが、ずっと簡単に思えてきますね…。

余談だけど、こう書くとなんだかアダプティブ・ラーニングみたいで、ということは、このへん、ICTの参入余地がありそうだなとかも思う…

教師には3つの専門性が必要?

In the Middleもふまえながら、今の僕は、ライティング/リーディング・ワークショップの教師が持つべき専門性って、おおよそ次のようなことなんじゃないかなって思っている。つらつらと書いたので項目が一部重なっているのもあるかもしれないが、ざっというと、「読み書き」「生徒理解」「ファシリテーション」の3つの領域についての知識と、その適切な運用が必要であるように思う。

読み書きに関する知識と、その適切な運用

  • 日本語の文法や語彙についての知識
  • 様々なジャンルの文章の特徴や文章の構成法についての知識
  • 様々な表現技法(レトリック)の知識
  • 読むことや書くことの仕組みに関する認知科学の知識
  • 本や作品についての知識(特に、子どもたちの年代が読む本や作品の知識)

目の前の生徒に関する知識と、その適切な運用

  • 目の前の生徒は、読み手としてどんな状態か?(好み・語彙力・読む力)
  • 目の前の生徒は、書き手としてどんな状態か?(好み・語彙力・書く力)
  • 目の前の生徒集団は、おおよそ、読み手・書き手としてどんな状態か?(→ミニ・レッスンに必要)
  • 読むことや書くことの熟達に関する認知科学の知識

ファシリテーションに関する知識と、その適切な運用

  • 安心して読み書きに取り組める場づくりの知識
  • 生徒への自由と責任を移譲する意義とその方法についての知識
  • 生徒同士の創発がおきる場づくりについての知識

まず「読み書きに関する知識」によって「教えるべきこと」の体系を頭の中に作り、「ファシリテーションに関する知識と、その適切な運用」によって教えるための環境を整え、そこで「目の前の生徒に関する知識」に基づき、「教えるべきこと」の体系を個別の生徒ごとに組みなおして、「必要なことを、必要なタイミングで」教えていく。こんなのが、理想的なライティング/リーディング・ワークショップの教師ができることなのかな、という気がする。

もちろん、どこに強みを置くのかは、その人の個性や、置かれた環境にもよる。大雑把な傾向としては、小学校の先生は目の前の生徒についての知識やファシリテーションの知識が優位で、中高の国語科である僕は教科の知識が優位という違いは感じる。とはいえ、別に小学校だから読み書きの知識がいらないといわけでもないし、中高だからファシリテーションの知識が不要というわけでもない。欲を言えば全部あることが望ましい。

もちろん、どんな教え方であれ、教えるということに「簡単」はないのだけど、こう書くといかにもハードル高いなあ…と書いてみて思った(笑)。カンペキは無理にしても、次の10年ライティング/リーディング・ワークショップをやりつづければ、少しはレベルアップできるのかなあ。少なくとも、ライティング・ワークショップやリーディング・ワークショップに興味を持ち始めたばかりの人には、今日の話は言わないでおこうっと。

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