[読書] 現場の雰囲気を伝える教育ガイド。名古谷隆彦「質問する、問い返す 主体的に学ぶということ」

近年急に聞くようになったアクティブ・ラーニングの言葉、そして新学習指導要領における「主体的、対話的で深い学び」…。この本は、共同通信社の教育担当記者による、近年の教育動向のレポートだ。近年の教育について一冊でさらっと知っておきたいという人には、ちょうどいいガイド本だと思う。

目次

能動的に学ぶ教育のあり方をレポート

この本の構成はとてもわかりやすい。最初にAIが進化している現状を紹介し、ついで日本の教育の問題点を踏まえてから、新しい時代に対応した「自ら学び、自ら考える」教育のあり方をレポートしていくという手順だ。主には、「学び合い」「国際交流」「議論する道徳」「哲学対話」がフォーカスされている。

リテラシーとコンピテンシーのテスト指標

個人的に興味深かったのは、日本の教育の問題点について述べている章。河合塾が「リテラシーテスト」「コンピテンシーテスト」の指標を開発して、ジェネリック・スキルの測定を目指しているという話だ。「へえ」と思ってちょっと調べてみたら、この「PROGテスト」のことらしい。下記リンク先で問題のサンプルも見られる。

PROGテスト

http://www.kawai-juku.ac.jp/prog/tst/

正直なことを言えば「こういうのまでテストにして大学のジェネリックスキル養成に食い込もうとしてるんだなあ」という身も蓋もない感想なのだけど、こういう動向にはちょっと興味があるのでチェック。

「道徳」と「哲学対話」の紹介

「質問する、問い返す」というタイトルのせいか、この本で紹介されているもののうち、「道徳」「哲学対話」については丁寧な印象がある。これらがどんなものかを手っ取り早く知るにはおすすめの本だ。

ただ、個人的には、ここで紹介されている「津波が襲ってきた時に足の悪い祖母を助けに向かうかどうか」というモラルジレンマの授業は、あまり良い授業とは思わなかった。ここでの議論の通りに人が行動するわけではないし、極限的状況の中で自他の命が関わってくるとっさの判断については、自分の無意識の選択を、どんな結果であれ、その後の人生で物語化して引き受けていくしかないのだ。モラルジレンマの教材として扱うのは適切ではないように感じた。

特に保護者が読むのにおすすめ?

一冊で色々な教育実践の紹介がまとまっているぶん、一つひとつの情報がそれほど深いわけでもない。個人的には、ハンガリーの医学部に留学するプログラムの存在など、「へえ」ということもあったけど、「学び合い」「議論する道徳」「哲学対話」などについては既知のことが多くて、この分野にアンテナを張っていた人には、分量や深さの観点からいって物足りない面もあると思う。

おそらく、この本の最適な読者は、教員でもこの分野についてはじめて手にとってみるとか、あるいは近年の教育動向を知りたいという保護者なのではないか。個人的には保護者こそがぴったりの想定読者のような気がする。新聞記者らしい、現場の雰囲気を伝える教育ガイド本で、教育の外の世界の人にとっての、親切な導き手となるはずだ。

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