[読書] 歴史研究ってこうなんだ!東野治之「聖徳太子」

聖人か、仏教の保護者か、有能な政治家か、いやそもそも実在したの? 歴史の教科書で「厩戸王」表記になるかどうかでも物議をかもした聖徳太子。この本は、古代史の専門家である著者が聖徳太子の実際の姿を史料の読解を通じてわかれりやすく説明している。なるほど、歴史研究ってこうやるのかと垣間見れる一冊だ。

「伝記風」の実証研究案内

著者はこの本のことを「聖徳太子の伝記」と呼ぶが、その著者自身も認める通り、伝記としてはかなり異色である。時系列にそって聖徳太子の業績をたどるような構成になっていないのだ。まず、聖徳太子の人物像が時代によって様々な解釈で捉えられてきたことが示される。「日本書紀」にはすでに伝説化した太子の逸話(一度に10人の話を聴くというエピソードなど)が語られ、平安時代には観音の化身でもある仏教の保護者として神格化され、儒学が主流の江戸時代には批判され、明治には天皇中心の国家にふさわしい古代の有能な政治家・文化人として再評価される。この本は、こうした聖徳太子の解釈の移り変わりを踏まえつつ、本当はどのような実像だったのかを史料の解釈を通じて実証的に検討していく本なのである、

実証へのあくなき追究

そういうわけで、この本では歴史の実証研究の実例がたくさん出てくる。たとえば聖徳太子の没年の手がかりとなる法隆寺金堂の釈迦三尊像の碑文が、一体本当はいつの時代のものなのかが綿密に考察される。聖徳太子の称号「王命」「皇子命」(ミコノミコト)とはどういう立場の人に与えられていたのかを、他のミコノミコトたちから探る。法隆寺所蔵だった(現在は中宮寺所蔵)天寿国繍帳から、聖徳太子の仏教観をさぐる…などなど、「なるほど、歴史研究ってこうやるんだ」とわかる事例がたくさんだ。一つ一つは細かくてとても覚えきれないけど、歴史の研究者さんはこうやって史実を確定していくんだなあ。よく「歴史は物語だ」「正しい歴史など存在しない」などと言われるけど、実証へのあくなき追究は、読んでいて印象的である。

歴史研究に興味のある高校生に

全体として、「素人にも歴史研究のやり方がわかるように伝えてくれている本」である。一つ一つはけっこう細かいので最後まで読み切るには多少忍耐が必要かもしれないけど、歴史研究に興味のある生徒に、「歴史学ってこういうことをやっているみたいだよ」と紹介するのにうってつけの本だと思った。

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