作文教育のプロセス・アプローチって何なの? (1)準備編

ずっと前に書きかけになったままのエントリに、「ライティング・ワークショップって結局何なの?」というエントリがある。

ライティング・ワークショップって結局何なの? (1)導入編

2015.03.19
これ、書こうとしたはいいものの、要するに勉強不足でアウトプットするところまでたどり着けなかったのと、『ライティング・ワークショップ』の翻訳者である吉田新一郎さんや小坂敦子さんらの「WW/RW便り」というブログですでに色々と丁寧に紹介されていることもあって、中断したままになっていた。

目次

WW/RW便り

http://wwletter.blogspot.co.uk

ライティング・ワークショップ(作家の時間)

https://sites.google.com/site/writingworkshopjp/

しかし、ここに来てようやく「アウトプットして現段階の自分の理解を確認する」「専門の方に読んでもらって修正点を教えてもらう」程度には知識が増えてきたので、上記のブログとはやや異なる切り口で、これから不定期連載の形で何回かに分けて書いていこうと思う。ただし、ライティング・ワークショップではなく、もう少し視野を広げてプロセス・アプローチについて書いてみたい。


この連載、第一義的には自分のためのエントリなので、「これだけでゼロからわかるプロセス・アプローチ」みたいな内容ではありません。どちらかというと、『ライティング・ワークショップ』『作家の時間』をすでに読んだり、ライティング・ワークショップの実践をしたりして、さらに背景となる情報を知りたい方向けになります。基本情報を知りたい方はこれらの本を読むか、上のリンク先の記事を読んでください。

ライティング・ワークショップとプロセス・アプローチ

さて、最初に混乱を招かないように、この連載内の用語の定義をしておこう。ものすごくざっくり言うと、プロセス・アプローチとは「プロダクト(書かれた作文)」よりも「プロセス(書く過程)」に重点を置く作文教育や作文研究のアプローチである。一方、ライティング・ワークショップとは、本来の語義から言えば、「書くことについてのワークショップ」なら何でもライティング・ワークショップと言えてしまう(句会だってライティング・ワークショップである)のだけど、作文教育の文脈での「ライティング・ワークショップ」は、「プロセス・アプローチを採用した作文の授業の一形態」を指す。プロセス・アプローチは「作文教育への取り組み方の基本スタンス」、ライティング・ワークショップは、「そのスタンスを採用した具体的な授業」という関係だ。

なぜこんな面倒な区別をするかというと、

  1. プロセス・アプローチは、一授業法であるライティング・ワークショップよりも広い概念で、授業法だけでなく研究のアプローチも含むから。
  2. そのせいもあって、作文教育研究の世界では「プロセス・アプローチ」の方が一般的だから。
  3. プロセス・アプローチを採用してはいても、吉田・小坂訳本『ライティング・ワークショップ』とは異なる形態の授業(例えば書くプロセスの一部分にだけ焦点を当てた授業など)もあり得るから。

である。この連載では、授業形式であるライティング・ワークショップだけでなく、その背景にある研究の動向なども扱うので、基本的にはライティング・ワークショップよりも広い概念であるプロセス・アプローチについて書くことにする。

今後の予定:色々な特徴を持つプロセス・アプローチ

プロセス・アプローチは、歴史的には1970年代のアメリカで始まったとされている。そして、プロセス・アプローチはその広がった時の事情もあって、単に「プロセスに注目する」だけにとどまらない、いくつかの特徴や傾向を持っている。次回からの不定期連載は、自分の知識の整理を主目的に、作文教育におけるプロセス・アプローチの特徴・歴史・批判についてまとめてみたい。専門の研究者の方、もし間違いがあったらご指摘ください。

大切な注記:日本の作文教育の話はしません

このエントリはあくまで英語圏の作文教育研究の話。作文教育に関心のある方ならご存知かもしれないが、プロセス・アプローチに似た観点は、日本にも大正期以降存在している。たとえば大正自由教育における綴方教育や、その後の生活綴方教育と、プロセス・アプローチにはどんな共通点や相違点があるのだろうか。これは個人的には興味深いテーマで、いつか取り組んでみたい問いではある。単純に同一直線上では語れないものの、素人考えでは部分的には「日本の作文教育の方が先を行っているんじゃ?」と思う点もある(僕は日本の作文教育の蓄積ってすごいなと思っている派である)。しかし、これについて語るにはなにぶん僕の勉強が足りていない。というわけで今回の不定期連載では、日本の作文教育については一切語らず、アメリカやイギリスのプロセス・アプローチについてのみ書こうと思う。決して日本の作文教育を無視しているわけではないのだけど、僕の力量不足ということでご容赦願いたい。

次のエントリはこちら。

作文教育のプロセス・アプローチって何なの? (2)特徴編

2016.06.15
ただ、日本の作文教育の実践や研究は英語ではほとんど発信されていないので、英語圏ではほぼ「ない」ことになっているのがちょっと残念である。そのことは、下記エントリにも書いた。そして僕は、「プロセス・アプローチは1970年代のアメリカで始まった」とする英語圏の論文の教科書的記述を見るたびに、「本当かな?いやいや…」とちょっとモヤっとした気持ちになっている。

2つの論文を読んで英語と日本語の「壁」を痛感する

2016.01.18

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