個別対応の強み、ライティング・チュートリアル

留学中のエクセター大学の長所の一つに、INTOという留学生向けの英語教育専門の機関の存在がある。これがとても役立つ充実したサービスなので、今日はお礼がてらそれについて書いてみたい。中でも役立つのは1対1のライティング・チュートリアルである。

2016-02-14 10.15.42

留学生向けの英語支援機関って?


INTOでは、学部生から院生までのすべての留学生を対象に、アカデミック・ライティング、プレゼンテーション、発音、単語、1対1のチュートリアルなどの様々な授業がある。事前に履修登録をすれば留学生はそれを全て無料で受けられるのだ(まあ無料で、と言ってもUKの非EU圏留学生の授業料はアホほど高く、きっとそのお金がここにも回っているのだけど…)。面白いところでは留学生の家族向けの無料英会話コースもあるので、我が家の妻も週2回2時間づつそれに通っている。

僕は先学期に修士学生向けのアカデミック・ライティングの基礎コースをとり、今学期は論文を書く学生向けの言語表現の授業、プレゼンテーション、チューターとの一対一のチュートリアル、スタディガイド(個別の勉強法相談)を履修している。先生たちの専門はTESOL(英語教授法)なので、授業法という意味では大学の教授陣より上手。大変助かる授業なのだ。

1対1の文章指導の強み

その中でも個人的に一番役に立つのは一対一でのチュートリアルだ。人気なので利用できるのは2週間に1回、各1時間程度なのだけど、僕は英文を書く経験がこれまでほとんどなかったので、実際に自分の書いた文章を見てもらうのはとても助かる。1対1の強みを生かして、単語や文法から英文全体の構成まで、事前のリクエストやその場の流れに応じて話し合えるからだ。

文法に焦点を当てたチュートリアル

例えば、前回の利用時にはどうしてもよく間違える「現在形」と「過去完了形」について教わった。特に英語に強いわけでもない僕は、これまで、

現在形…現在のことを表すのに使う
過去形…過去のある一時点を表すのに使う
現在完了形…過去のある一地点から現在までのことを表すのに使う

という非常にざっくりとした感覚だったのだけど、こっちに来てから、自分では「これは過去形だろう」と確信したものがしばしば「ここは現在完了形を使う」と言われて、戸惑っていたのだ。「ここは現在形でも過去形でも過去完了形でもどれでも選べるね」とも言われたりする。なんでも選べるって、一体何なのそれは?

先日、このチュートリアルで自分の文章をもとにその点について聞いて、時制が文字通りの「時」ではなくて対象への話者の距離感覚を表すことも多いらしいことを知り、ようやくこの謎が少し氷解した。

例えば、1920年代に書かれた論文であってもそれが自分の研究関心と地続きになっていれば、引用する際には現在形や現在完了形を使って語るし、逆に新しい論文でもそれに批判的な立場を取る時には過去形をとることもできるのだそうだ。そういう使い方で読者に自分の立ち位置のニュアンスを伝えるのだそう。なるほどー。日本語で過去の出来事を表す時であっても、臨場感を出したい時に「る」形を使う(例:物音に気付いて彼は振り向いた。途端に黒い影が目の前に迫ってくる。)のと似たような感じかな。これって英語が出来る人には割と知られた話なのかもしれないけど、僕には新鮮で面白かった。

全体の構成に焦点を当てたチュートリアル

また最新のチュートリアルでは、僕のdissertation(修士論文)に向けた提出課題を、指導教授に見てもらう前にチェックしてもらった。本当は文法チェックのつもりだったけど、先行研究を扱ったパートの構造や研究法の妥当性の話になり、これも大変役にあった。自分ではロジックをしっかり組み立てたつもりでもそうでない、ということがいくらでもあるのだ。の人の質問に答えるうちに自分で解決策を見つけることも多いので、他人の視点で見てもらうことは本当に役立つ。また、言語ではミスがあっても修論のプロジェクト自体は(社交辞令という感じではなく)とても高く評価してもらえたので、それも励みになった。

日本語ライティング・チュートリアルが欲しい

こういう1対1のチュートリアルは、ここエクセターのように欧米の大学附属のライティング・センターで広く行われていて、アメリカでは学校の生徒たちが運営するライティング・センターもある。3-4年くらい前に読んだ下記の本は、その事例としてとても面白かった。いつか自分の学校でも…と思ってしまう。

ただ、日本ではまだこうした取り組みの背景にあるプロセス・アプローチ自体があまり認知されていないし、予算確保も大変なので、日本語ライティング・センターは、まだまだ早稲田大学やICU高校を始めとする一部の事例にとどまっているのが正直なところだろう。

書くことはそもそも個別性の高い営みだ。あえて言ってしまうが、一人の教師が1クラス40人×複数クラスの生徒を見るのは、本来無理な話なのである。生徒同士の学び合いにも教師が関わらないメリットがあるが、それと同時に、1対1で生徒が熟達者に自分の文章を見てもらえる日本語ライティング・チュートリアルが、やっぱり欲しいところ。また僕自身も、本当は授業よりもそういう1対1のやり取りが好きなのである。

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