[読書]カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』

夏休みに生徒とやっている図書館での有志読書会「ぶらり読書会」、今年の課題本はこの本だった。


わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)
カズオ・イシグロ
早川書房
2008-08-22


 

図書館Day! ぶらり読書会とプレゼン準備

2015.08.05
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もともと好きな小説。今回読みなおして、あらためてその素晴らしさにしっとりと浸る。設定としてはSF小説の枠組みで、「普通ではない」人々を主人公に据えながらも、これは確かに自分たち普通の人々の物語だ、という気がする。自分の生きる意味とは何か、いつ死ぬのか、セックスの喜びと悩み…。

介護人キャシーの回想の形をとりながら、彼女が通った寄宿学校ヘールシャムの奇妙さが徐々に明らかになっていく語り口も、ミステリ小説のよう。謎めいた設定が明らかになる頃には、すっかり登場人物たちに感情移入してしまう。キャシーと、ルースと、トミーと、3人の主人公たちが、自分の過酷な運命にどう向きあっていくかがそれぞれ微妙に異なっていて、その違いを淡々と、しかし三様の感情の昂ぶりを確かに伝える書きぶりが素晴らしい。大好きな小説。また、いつか読むだろうと思う。

ところで今回気になったのは、ヘールシャムにいる先生たちのこと。自分の生徒たちに拭い切れない嫌悪感を一方で持ちながらも、正義のためにその嫌悪や恐怖を押し殺して働く彼ら。生徒に真実を告げるべきだとする理想主義のルーシー先生と、彼女を排除した主流派の先生たち…。どうしても、自分はどっちのタイプだろう、ということを考えてしまう。これ、教職の人たちとも読んで語り合いたいなあ。同僚との読書会って、できないかな。

そして、カズオ・イシグロの最新作『忘れられた巨人』。これも読みたい。

忘れられた巨人
カズオ イシグロ
早川書房
2015-05-01


 

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