[ITM]僕たちがアトウェルから学べる8つのこと

In the Middle読書日記。半年かけて読んできたこの本との日々も、そろそろ一区切り。最後に、アトウェルという素晴らしい教師から、それとはまるで異なる環境にいる日本の国語教師である僕が学べることを、いくつかメモしておきたい。


(1) 「良い作品を書かせる」のではなく、「良い書き手を育てる」こと

ライティング・ワークショップについての本では、「作品ではなく書き手を育てる」ということがよく書かれている。数年前まで、僕は実のところこの言葉の意味がよくわかっていなかったと、今になってそう思う。「その人が良い書き手であることを、良い作品以外の何が証明するの?」と思っていたのである。でも最近、この「書き手を育てる」というアイデアが、ようやく身体に馴染んできたと思う。これが当たり前のことのように思えてきた。大切なのは、その時々の作品を良い物にすることではない。たとえその学期に良い文章を書いたところで、卒業後にその生徒が読み書きから離れてしまったら、教育としては成功とは言えないだろう。その生徒が「書く」「読む」ことを自分の人生をより良く生きるためのスキルとして活用できる人になるためには、作品という「点」ではなく、それを生み出す「線(プロセス)」に注目すべきだし、もっと長い視野で読み書きを教えないといけない。


(2)たくさん読み、たくさん書くこと
 

読み書きの力を伸ばす一番のシンプルなルールはこれである。「量だけでいいのか」と言う人もいるが、そんなのはまず量をこなしてからの話だと思う。アトウェルの学校の生徒は、とにかく一年中読むことと書くことに浸っている。これに比べたら、うちの生徒は圧倒的に読み書きの量が足りない。 それだけ、まだ僕が生徒のポテンシャルを引き出せていないのだ。

[ITM]リーディング・ワークショップの基本方針

2015.02.03


(3)生徒にオーナーシップを持たせること

たくさん読み書きをするためにも、オーナーシップを持つことは大切だ。教師が決めた文章を全員で読むのでは、そもそも個々に異なる生徒のレベルや関心にあわせられない。だから、読むことが苦痛だし、たくさん読むこともできないのだ。「生徒の自主性を尊重する」というと「楽しそうだし耳あたりはいいけど、それで力はつくの?」と反問する人は、ここのところを根本的に間違えている。実際、アトウェルのワークショップを見て、誰が「楽しそうだけど、これで力がつくんですか?」と聞くだろう。アトウェルのワークショップは、どうみても「みっちり鍛える」ワークショップだ。生徒にオーナーシップを持たせるのは、個々の生徒にあわせてより効果的に鍛えるためである。

(4)ルーティーンを大切にすること

上の(1)(2)(3)に関しては「改めて実感した」ことなのだけど、今回読みなおして、特に第三部のジャンル・スタディのところで痛感したのが、アトウェルのワークショップが同一のルーティーンに貫かれていること。本当に必要なことを絞り込んで、それを何度も何度も繰り返す。こうやってはじめて書くプロセスが実感をともなって定着していくのだと思う。これは僕の授業には不足している。つまり、本当に大切なことが何かを、まだ見極められていないということだ。

[ITM]ルーティーンの力:回想録と小論文

2015.05.18
(5) 丁寧に指示すること

引き続き授業技術的な話を。今回驚いたのが、アトウェルの指示が非常に細かく、具体的であることだ。「目を閉じなさい」のようなことまでいちいち指示している。

[ITM]映像を思い浮かべるために

2015.05.17

上のエントリでも書いたけど、この細かさは大村はまの手引きを思い出させる。僕は面倒くさがってここまでできていないのだけど、指示の理解不足のせいで授業の質が落ちないように、本来はここまで丁寧に指示すべきなのかもしれない。

(6)「本物」の発表の場を用意すること

もう一つ、授業技術的な話。今回読んで感銘を受けたのは、Advocacy JournalismやProfileといったジャンルの実践。特にNPOへの資金援助と絡める前者の授業は圧巻だった。それ以外でも、アトウェルの授業ではいつも「本物」の発表の場を用意している。間違っても、「読むのはアトウェルだけ」という状況にはしない。この「発表の場を用意すること」も、忙しい日々の中で、僕たちが「わかっているけどやっていない」になりがちだと思う。

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2015.05.25

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2015.05.28

これだけある、カンファランスの種類

2015.08.03

(7)学び手としてのモデルを示すこと

第3版でのアトウェルは、第2版よりも積極的に自分の知識を教え、各所でデモンストレーションを行っている。彼女の言葉を借りれば、hand overしているのだ。

[ITM]第3版の鍵概念、hand over(手渡す)という考え方

2014.12.29

自主性を尊重することと教えることのバランスはこの本のテーマでもあり、彼女は以前よりも教えることに傾いているように僕には思える(下記エントリ参照)。

[ITM]第2版から第3版へ、15年間のアトウェルの変化?

2015.02.22

その姿勢への賛否はおいて、アトウェル自身が知識も経験もある読み手・書き手としてのモデルとして生徒の前に立っていることの効果はとても大きい。ミニレッスンで自分の作品や自分のメモを使いながら生徒の前に立つことは、生徒の信頼感も増幅させるだろう。こんなアトウェルの姿勢も、自分が学び取りたいことだ。

(8)生徒の成長には時間がかかること

In the Middleを通読してから再び最初のほうに戻ってみると、「毎日書いたとしても、書くことの熟達はとても時間のかかるプロセス」(p28)と書いてあることの重さがあらためてずっしりとくる。これだけ日々時間を取り、これだけ手間をかけて鍛えているアトウェルの学校でさえ、「書くことの熟達はとても時間がかかる」と言っているのだ。この姿勢に比べたら、ちょっとくらい授業時間を使ってやってみて、それで効果が出たとか出なかったとか言っていることの、なんと浅はかなことだろう。高い期待を持って、待つことが第一だ。

僕がアトウェルから学んだことのメモは以上の8つにまとめられる。もちろん、細かいことを言えばきりがない。でも、この大きな8つを貫けることができたら、僕の作文授業は相当改善されるはずだ。そして、僕にとって今回のIn the Middle読書の半年間の成果は、今回のエントリを書けたこと。半年間の勉強も、これでもう終わりである。この連載?も、次回、これまでの記事を全てまとめて、終わりにしようと思う。

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