授業見学記@福井県立若狭高校

下記エントリでも書いたように、福井県立若狭高等学校の渡邉久暢さんの授業見学に行ってきた。わざわざ福井まで行ってきた価値があったと思う。とても勉強になった。

 

福井県小浜市に来ています。

2015.05.12


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と言っても、 渡邉さんとは、以前に僕の作文の授業を見に来てくれた後のディスカッションで、おおもとの授業観や学習者観についてはかなり共通点があるという感触を得ていただけに、渡邉さんのやることに「驚き」はあまりなかった。それよりも、「なるほど、これはこういう意図だよね」といちいち納得できることが多い。ただ、僕の授業よりもそれが「持続可能な一貫性のあるフォーマット」になっていて、そこから学ぶことが多かった。

まず大事だと思ったのは「無理をしない」ということ。渡邉さんの授業は毎回のノートにびっしり書かせることを特徴にしていて、事前にはさぞチェックが大変だろうと思っていた。ただ、実際には、(もちろん負担ではあるにしろ)一人あたり数秒ざっと読んで済ませるだけ。目的はクラスの状況を把握することにあって、ほとんどコメントすることはないし、しても「なるほど!」「?」程度。他には、いい振り返りをたまにコピーする程度だそうだ。コメントつけには生徒がノートを提出する朝以外にも、授業中の時間帯も使うことがあるらしい。これだとおそらく、ノートチェックの時間よりも、教材や関連論文を探す時間のほうがはるかに長いだろうと思う(渡邉さんは教材研究をとてもしっかりなさっていて、目立たないけれどもこっちのほうがむしろ真骨頂である)。
ノート以外でも、授業中のさまざまな場面で「自分が楽になる」方法を考えて指示を出したり、活動の限界を定めたりしていて、これは大事だと思った。僕はつい、生徒に大福帳を書かせればコメントしたくなるし、生徒に解釈を書かせたらタイプして共有したくなる。それ自体は効果を感じるからこそやるんだけど、そのひと手間が重なると、だんだん負担が重くなってくる。以前、疲労が重なって病気になったことがあり「あすこまさん、資料が充実しているのはいいけど、少し肩の力を抜いて下さい」と生徒に言われた経験もある僕にとっては、これは大事だなあと思った。渡邉さんは、終始、肩の力が抜けていた。

次に、「学習は最終的には個人でやるもの」という意識で貫かれていた。彼の授業では前後や横でのペアワーク、4人でのグループワークが絶えず展開されていて、授業はほとんど生徒の活動で貫かれるアクティブ・ラーニング形式だ。形態だけ取り出すと協同的な学習なのだけど、でも、こうしたワークはすべて個人がノートを書いて思考を深めるための手段に過ぎない。その証拠に、課題を解く時に4人組にはなるけれども、「4人で協力して解きなさい」という類の指示は一切出さず、一人でやる余地を残している。また、4人で一つの成果物を作ることもしていなかった。少なくとも今日の授業での成果物は全て「個人で書くノート」だった。
また、どの授業でも、課題を終えた生徒一人ひとりと廊下や教壇で一言だけ話すシーンを作っていた。根本的なところでの誤読がないかをチェックする程度の簡単なやりとりなのだけど、授業中に全員と話す場面をわざわざ作っている(ちなみに待ち時間が発生しないよう、話が終わった生徒はその場で次の課題のプリントを受け取ってとりかかる仕組みになっている)。
そして一方で、一人が全員の前で発表(プレゼンテーション)したり、どこかの班の話し合いの内容を全体で共有することはしていない。授業のあとの質疑応答では「時間がもったいないから」と言っていた。おそらく、一対多や班対多の構図だと、「多」の側の生徒にとって学習効率が悪いことを指しているのだと思う。

そういう「個」重視の姿勢が明確に現れていたのが、授業終了の仕方。授業の最後は振り返りを書いたり課題を個人でやっている最中なのだけど(終わらなかった部分が宿題になる)、チャイムがなると渡邉さんは一言も言わずに教室の後ろからさっと出てしまう。そうして、号令も何もないまま授業がフェードアウトしていく。「これは学習の終了時刻は自分で決めていいというメッセージなんだ」とすぐにわかった。案の定、チャイムとともに休み時間に入る生徒もいれば、きりの良いところまで学習の余韻にひたっている生徒もいる。
僕も「だらだら授業をはじめてだらだら終わる」のが好きなタイプ(起立・礼・着席はしない)なのだけど、この渡邉さんの授業の終え方は素敵だなと思った。好き嫌いはあるし批判もあるだろうけど、授業者の思想が明確に表れた良いシーンだったと思う。

最後に、やはり継続してノートに書き溜めていくことの魅力を感じた。プリントと違って、考えの変化が一望できる。また、これだけ書くと、あとで振り返った時の達成感もひとしおだろう。うちの生徒が若狭高校の生徒のように、プリントを毎回ハサミで切って糊でノートに貼るなんてことができるとは考えにくく、「いいけど現実的ではないなあ」と思っていたけれど、実際にノートを見ると、ぜひ真似したくなった。やるなら、こっちがハサミと糊を教室に持っていくくらいのことが必要だけど、それでもやってみようかと思わせるほどだ。
毎回、最大で1ページくらい書かせる模様。最初は1行くらいしか書けなかった生徒が、毎日書くことで少しずつ増えていくそうだ。ノートに書けない子はどうするのかなあと思ったら、「大きな字で1ページぶん書く」「他の人のをパクる」ことを奨励しているらしい。それを毎日やることで、少しずつ、書けるようになっていくのだろう。毎日続けることの重みを感じる。

全体的な印象では、僕にはたぶん渡邉さんと同じ方向性の授業ができると思う。それは、「量は質を凌駕する」「学習は最終的に個人のもの」「学習者にオーナーシップを持たせる」「生徒を面白がらせないと学習はおきない」といった価値観の部分で、僕たちにはかなり似ている点があるから。それだけに、自分の授業を具体的にどう改善すればいいのかという点で、かなり参考になることが多かった。無理をせず、自分が楽をできる方法を選ぶ。「学習は最終的には個のもの」というメッセージを発していく。生徒の活動に「空き時間」がない授業の組み立てを意識する。書いたことをグループ内で話す前に「沈黙の時間」をつくってもう一度考えさせる。そして、毎日ノートを書くことで考える。そういったさまざまな具体的な手立て。

まだまだ、やれることがありそうだ。今後が楽しみになってきた。

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8 件のコメント

  • とんでもない、こちらこそ何から何までありがとうございました!

  • 授業の様子が目に浮かんでくるようです。
    個々の学習を保証する仕掛けとしてのグループワーク、とても魅力的ですね。
    ノートに蓄積していくのは、生徒たちの成長か見えて本当にいいですね!
    今回、私が実践している4回のプッククラブのノートでも、ぐんぐん伸びているのを実感しています。

  • 突然失礼します。
    素敵な実践記事、見学記事読ませていただき、ありがとうございました。
    ノートにプリントを貼ることですが、私はB5のプリントを用意するため、A4判のノートを買わせました。
    細かいことですが、授業中にハサミの音がしゃくしゃく響くのと、作業時間の差による待ち時間、教室にゴミが落ちるのが嫌で、切らずに貼れるものを用意しています。生徒の半数程度はスティックのりやテープのりを筆箱に入れているので、隣近所と貸し借りを促せばスムーズに短時間でノート整備の指示ができます。いつものりを借りるのを心苦しく思う生徒は、暫くしたら自分で用意するようになります。
    B5判のノートに貼らせる場合は、A4のプリントを半分に切ってA5にして持って行きます。貼った後のノートが美しいのも気に入っています。

  • 新潟市の峰本です。
    渡邉さんのふりかえり方法に刺激を受けて、私も今年度、高校の授業を受け持つことになり、ふりかえりをノートに書かせています。しかし、なかなか自分自身が続きません。
    途中でプリントにふりかえりを書かせたり、短大での授業では大福帳を使っているので、大福帳に浮気しようかと考えたり、右往左往しています。
    渡邉さんの授業をいつか見たいなぁ、と思います。

  • >イクトスさん
    イクトスさんのブッククラブも、ノート指導がセットになった授業設計でしたね。僕も「出来ない言い訳」探しは止めて試してみたいと思いました。
    >国語科教員さん
    なるほど、ハサミの手間とゴミを省くだけでも随分違いそうです。A4のノートというのはいいですね。他教科のノートがB5サイズなのがちょっと気になりますが、やってみるメリットは大きそうです。教えて下さってありがとうございました。
    >峰本さん
    お久しぶりです、ブログ時々読んでます! ご自身が続かない理由って何でしょうか? ちなみに渡邉さんはほとんどコメントをつけていなかったので、ノートチェックの手間は予想よりも軽かったです。おそらくウェルカムだと思われますので、ぜひ見学に行かれて下さい!

  • あすこまさん、こんにちは。お久しぶりです。渡邉さんの授業もですが、あすこまさんの授業をぜひ拝見したいなあと思っております。
    ペアワークも、グル―プワークも個人の思考を深めていくための過程であるというところに共感を得ました。
    私もそういう授業をめざしたいと思っています。

  • 押木さん、あすこまです。こちらはいつでもかまいませんので、ぜひお出で下さい。こちらも新潟にうかがって、押木さんや峰本さんや他の知人の方の授業見学や、図書館の見学など、したいと思っています!