写真を読んで書く小論文問題

ツイッター経由でこんな興味深い記事が流れてきた。

「コートの男」で小論文…何を書けば受かる?

順天堂大学医学部一般入試の小論文試験で今春、こんな写真とともに「キングス・クロス駅の写真です。あなたの感じるところを800字以内で述べなさい」という問題が出題されたらしいのだ。真っ向勝負のクリエイティブ・ライティングで、けっこう興味深い出題である。

写真を素材にしたクリエイティブ・ライティング


写真を見て文章を書くという課題は、僕も過去に何度か授業や大人相手の研修でやったことがあっる。自分で書く材料を指定しないといけない場合には、わりと好きな方法だ。その際に写真を選ぶ個人的な基準は、

(1)ストーリー性があること
(2)写真の中に何らかの謎があること

の2点。過去には、ナショナル・ジオグラフィックの写真や、エリオット・アーウィットの写真集「幸福の素顔」などを使ってきた。

このキングス・クロス駅の写真も、好きな写真だ。トーンとしては、ナショジオで時々見る写真の雰囲気に近い。去って行く男と、それを見送る視点人物の関係は? 男はどこに向かうのか? それともどこかに帰るのか? 時間はいつ? なぜ他に誰もいないの? 右手手前の風船は? そして、なんとなく人間の体内を想起させる赤いトンネル…。色々なことを想像させる写真だと思う。授業で使ったら、面白そう。今度、勉強会の仲間とこれで書くワークショップをやりたいな。

さて、採点は?

ところで、この問題が入試である以上は、何らかの基準があり、それで点数をつけているのだと思うけど、それは少なくともこの記事で解答例とされているような、

我々人間は、急速に変化する高度な文明の渦に飲み込まれている。日々刻々と更新される新しい情報の入手に追われ、身の回りの小さな変化に気がつく暇がない。しかし、これでは通学途中、駅に向かう道すがらで道端に咲いた1輪の花の美しさにも気づくことはない。我々は、目先の情報を獲得することに奔走し、心のゆとりや、さらに言うならば本来人間に備わっているべき人間性のようなものを喪失しつつあるのではないか。

みたいな結論のものでは決してないと考える。こういう、思考の跡が全くないありきたりの結論をもってこさせたいのであれば、これまでの課題文型の小論文でも充分で、わざわざクリエイティブ・ライティングをさせる必要がないからだ。むしろ、適当に写真を解釈しつつあらかじめ用意していたこの種の決まり文句に「落としてくる」タイプの答案は、この写真を出題した人なら歓迎しないだろう。

では、実際どういう解答が歓迎されるのかというと、僕にはわからない。一定以上の文章力と観察力を示せば、あとは相性の問題である気もする。そして企業の採用試験の面接だって畢竟相性の問題なので、大学入試がそれと同じように相性で合否が決まっても、全く問題はない。自分の基準で入学させた側が、責任を持って育てればいい話である。

受験指導する側の「正しい戦略」に負けないでほしい


しかしながら、悲しいかな、受験指導する側としては、先の解答例のような答案の型を教えていくほうが圧倒的に「正しい戦略」なのも事実なのだ。第一に、「正しい解答の型がある」ように自信をもってふるまうほうが、受験生の顧客満足度を高められるから。第二に、実際の出題意図がどうあれ、 先の解答例のような解き方を受験生に教えてそれを受験市場に蔓延させてしまえば、そのような解答であふれかえり、結果的に出題意図を無効にできるから。

こういうチャレンジングな小論文の出題は、個人的には好き。受験業界の都合によって押しつぶされることなく、生き残ってほしい。

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