[ITM]アトウェルの30年の歩み:In the Middle 第3版を読み始めた

アメリカに、ナンシー・アトウェル(Atwell, Nancie)という英語教師がいる。1970年代から英語の教師として働き始め、1980年代にドナルド・グレイブスらの影響でライティングをワークショップ型の授業に転換、引き続いてリーディングの授業も同様の形に切り替え、その後ずっとライティング・ワークショップ/リーディング・ワークショップにおいてアメリカを代表する実践者の一人となっている人物だ。

とにかく授業がパワフルで熱心、本人の読書量や書く量も半端ではなく、僕は勝手に「アメリカの大村はま」扱いしているのだが、彼女と大村はまの共通点は、常に実践を見直しつづけ、変化しつづけているところ。 

アトウェルは、自分のワークショップ型授業についてIn the MIddle(1987)という本にまとめて出版し、これが大ヒット。すごいのは、彼女が本の印税を資金にしながら、なんと1990年にアメリカのメーン州に自分の学校を設立し、そこでさらに授業の探究を行いはじめたこと。このあたりは一介の国語教師の僕にはもう何がなんだかわからない話だ。



 ▷ Center for Teaching and Writing (アトウェルが設立した学校のウェブサイト)

そして、そこでの経験をもとに、1998年にIn the Middle の第2版を出版。 初版から10年たって書きなおされた第2版は、「More than 70 % new material」と銘打たれていて、アトウェル自身の考えも大きく変化していた。具体的には、かつては「ファシリテーター」であることを重視していた彼女は、英語や英文学のプロフェッショナルとしての自覚を強め、「教えること」「自身をモデルとして示すこと」を躊躇しなくなる。その後の彼女の教師人生の多くは、この「プロフェッショナルの姿を示し、教えること」と「生徒の活動をファシリテートすること」のバランスの模索にとられている。

In the Middle第2版は、個人的にも想い出深い一冊。というのも、中高大を通じて基本的に英語からは逃げてきた自分が、2008年度からライティング・ワークショップの実践をはじめて、「これは読みたい!」と思って2年間かけてちょっとずつ読んでいたので。「少しでも英語読めるようにならなきゃ」という意識を持たせてくれた本でもある。



なお、アトウェルが第2版で強調する「教えることとファシリテートすることのバランス」の話は、活動型の授業をする教員にとって非常に示唆的だと思う。特に、ライティング・ワークショップに関していま日本語で読める以下の本では、ファシリテーターとしての役割が強調されていて、「コンテンツのプロフェッショナル」としての教員の側面があまり言及されていない。これだけ読むと、「ライティング・ワークショップの教師はあまり教えないで生徒の考えを引き出す役に徹するべき」と勘違いする人も出てくるんじゃないかと思う。


そして今年、第2版からさらに15年以上たって、第3版が出た。なんと今度も「80% new material」。副題からいってもアトウェル最後のIn the Middleになると思う。表紙のアトウェルの顔写真が、初版からの長い時間の経過を物語っている。



先日この本が届き、知人を一人誘って読み始めている。一ヶ月で100ページ、半年かけて読む予定。ずいぶんゆっくりだけど、前は2年かかったからこれでも進歩かな。いや、開始から10日間たってみると、実際一日平均3ページのペースでも僕にはしんどい。朝30分早起きして読んでるけど、一人だったら絶対に挫折するね(^_^;)

しかし、これほど多くを書き直すことにも感嘆するが、それでもなお共通のIn the Middleというタイトルをつけていることも興味深い。シンプルだけどちょっと多義的なタイトル。いつまでも「途上」なのか、教室の中心に何かがあることを暗示しているのか。In the Middleの半年の旅を、楽しんで乗り切りたいと思う。せっかく読むのでこれからブログでも何度か言及する予定、よろしくおつきあいのほどを!
 

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