「話すように書く」のは無理だという話

文章を書くのが苦手な人向けに、「話すように書きなさい」という助言があると聞いた。

これは多分「難しい言葉を無理して使わず、ふだん話している易しい言葉で書きなさい」とか「あまり考えすぎずに気楽に書きなさい」とか、そういう意味なんだと思う。心理的ハードルを下げるという意味では、頷けるところもある助言。

でも、話し言葉と書き言葉は共通点もあるけれど、相違点が多すぎて、文字通り「話すように」書くのは端的に無理な話だ。ある本を参考にしつつ簡単にまとめると、話し言葉と書き言葉には次のような違いがあるらしい。

(1)話し言葉には、言い淀み、文法的な破格、「それで、それから」「でしょ?」の多用など、書き言葉では歓迎されない多くの慣習的用法がある。

(2)話し言葉と書き言葉では語彙が異なり、それぞれでしか用いない語彙がある。

(3)話し言葉は、声の大きさやピッチなどを活用してニュアンスを付加できる。書き言葉にはそれがない。

(4)いったん話した言葉は「元に戻る」ことができないが、書き言葉では「読み返す」ことができる。それを考慮に入れた書き方ができる。

(5)話し言葉は、表情やジェスチャーなどと一緒に用いる。書き言葉にはそれがない。

(6) 話し言葉では、聞き手の反応がその場ですぐにわかり、それがフィードバックとなって直後の話し方や内容に影響する。書き言葉では普通はそのようなフィードバックがないままのことが多い。

    Cremin, Teresa and Myhill, Debra. 2012.  
Writing Voices をもとに加筆


いざこうやってまとめると、思ったよりも大きな違いがある。「話すように書く」って無理だなあ。「話すように書きなさい」という言い方、少なくとも自分は使わないようにしよう。

 

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